令和6年度 学位記授与式 学長式辞

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

令和6年度 学位記授与式 学長式辞

 皆さん、ご卒業、誠におめでとうございます。

 本日ここに、学位記授与式を挙行できますことは、本学にとって大きな喜びです。皆さんは、獣医学、獣医保健看護学、動物科学、食品科学、さらには大学院研究科での高度な学びを修められ、新たな道へと踏み出されます。これまでの持続的な努力と学びへの情熱に心から敬意を表します。

 また、本日はご多忙の中、ご臨席いただきました鈴木常務理事をはじめ、ご来賓の皆様に心より御礼申し上げます。さらに、これまで卒業生を支えてこられた保護者の皆様に、心より祝いを申し上げますとともに、本学へのご支援に深く感謝致します。

 この様に多くの方々の祝福を受けながら、未来へ旅立つ皆さんに、教職員を代表し、改めて心よりお祝い申し上げます。

 さて、皆さんはそれぞれの思いを胸に本学に入学されました。その思いは達成されたでしょうか。それともまだ道半ばでしょうか。あるいは大きく変化を遂げたのでしょうか。

 大学生活を振り返ったとき、皆さんが共通して大きな影響を受けたのは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックではなかったでしょうか。この感染症は2019年末に中国・武漢で発生し、翌年2020年には瞬く間に世界に拡散しました。皆さんの高校時代から本学入学当初の学生生活においては、学内行事やサークル活動の制限、リモート授業の導入など、新たな生活様式に戸惑いや不安を感じることもあったでしょう。それでも皆さんは、さまざまな制約を乗り越え、各学科および各専攻での学業を全うされ、本日、晴れやかに学位記授与式を迎えられました。このことは皆さんが高い適応力と忍耐力を持つ証です。

 現在、コロナ禍は終息し、以前の生活がほぼ完全に回復しました。しかし、世界は依然として多くの課題を抱えています。ロシア・ウクライナ戦争の長期化、中東地域の紛争拡大、国内では自然災害や事故による被害が相次いでいます。このような不安定な時代だからこそ、皆さんは将来への希望を強く胸に抱き、卒業後もそれぞれの分野で研鑽を続けてください。

 さらに、ポストコロナの新時代においては、これまでに経験したことのない速度で、社会が大きく変容を遂げています。特に、生成系AIの発展は、研究や産業、私たちの生活に至るまで、新たな可能性をもたらす一方で、倫理的課題や誤情報の拡散といった問題も生じています。皆さんには、このような新しい技術を正しく活用しながら、科学的根拠に基づいて判断することが求められてくるでしょう。専門的な知識と技術を修めた人材として、社会で活躍されることを期待しています。

 本学は明治14年、9人の若き陸軍獣医官が協力し、文京区音羽の護国寺に開学した日本最古の私立獣医学校を起源とし、2031年には創立150周年を迎えます。当時の明治政府は、殖産興業政策の一環として畜産振興を掲げており、本学の誕生は時代の要請によるものでした。皆さんの式次第には、学歌が掲載されています。その第4抄には、「人の世恵む鳥獣を愛しみ護るも国のため、敬譲相和ゆるみなく、愛と科学の聖業にいそしむ日々ぞさかえあれ」とあります。この学歌は戦前に作られ、この一抄のみが戦後も改定されることなく、現在まで歌い継がれています。これには創立当時の9人の若人が掲げた高い理想が込められているのです。

 そのため、本学は学是を「敬譲相和」、到達目標を「愛と科学の聖業を培う」と定めています。「敬譲相和」とは、謙譲と協調、慈愛と人倫を育む科学者の創生を説いた箴言とされ、持続可能な共生社会の実現を目指す現代においてこそ、科学者が意識すべき言葉です。皆さんには、相手を敬い協調する姿勢を持ち、「愛と科学の心」、すなわち動物愛と人間愛にあふれた科学者として、獣医師、専門職、研究者など、さまざまな立場から社会に貢献していただきたいと思います。

 また、「愛と科学の聖業を培う」とは、人と動物の幸福を追求すること、そのために人材を育成し、社会に貢献することです。人と動物の健康や環境が密接に関連しているとする「ワンヘルス」の概念は「ワンウェルフェア」へと進化しています。人類と動物が共に健康で幸福に暮らせる社会の実現が求められる中、皆さんの学びは、その実現に向けたものであったはずです。人獣共通感染症の制御、世界的な食料問題への対応、動物福祉の推進など、皆さんの役割は今後ますます重要になっていくでしょう。

 人生100年と言われる時代に、仕事や生活を効率化する様々なツールが開発されています。皆さんには、新たな発想で何度もチャレンジできるそんな未来が広がっているのです。臆することなく挑戦して下さい。迷った時には情報に埋もれるのではなく、自分自信の心の声に耳を傾けて下さい。上手くいかない時でもポジティブに考えることを習慣付けて下さい。苦しい時にこそ、新たなチャンスが隠れています。変革は常に少数の人々から始まるものです。その時には実現できなくとも、思い続けることが大事です。正しいことであれば、いつかどこかで誰かが力を貸してくれるでしょう。しかし、耐えがたい痛みで心が折れそうになった時には、ぜひ母校、指導を受けた先生、共に学んだ友人に相談してください。きっと真摯に向き合ってくれるはずです。

 これからの人生で多くの人と関わり合い、困難を乗り越えながら成長していってください。そして、いつの日か、ふと過去を振り返ったとき、「これでよかった」と思える、そんな人生を歩まれることを切に願っています。

 本日は、誠におめでとうございます。

令和7年3月6日
日本獣医生命科学大学
学長 鈴木浩悦