令和7年度 学位記授与式 学長式辞

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

令和7年度 学位記授与式 学長式辞

 本日ここに、学位記授与式を挙行できますことは、本学にとって大きな慶びです。

 このたび、学士の学位を授与された皆さんは、獣医学、獣医保健看護学、動物科学、食品科学の各分野において、専門知識と実践力を身につけられました。また、修士あるいは博士の学位を授与された皆さんは、高度な学術の研鑽を通じて、各分野の新たな課題に立ち向かう力を培われました。皆さんがこの間に重ねてこられた努力と探究心に、心より敬意を表しますとともに、これからのご活躍を心より祈念いたします。

 また本日、ご多用の中ご臨席を賜りました、学校法人日本医科大学理事長 弦間昭彦先生をはじめご来賓の皆様に、厚く御礼申し上げます。さらに学部卒業生・大学院修了生を今日の日まで支えてこられた保護者の皆様に、心よりお祝いを申し上げますとともに、この間、皆様からお寄せいただいた、本学の教育・研究活動に対する温かなご理解とご支援に、深く感謝申し上げます。

 さて、本日門出を迎える皆さんは、「これを学びたい」「こうなりたい」という、それぞれの思いを胸に、本学に入学されたことでしょう。その目標は達成されたでしょうか。あるいは、まだ道半ばと感じているのでしょうか。もしかしたら、当初とは異なる新たな目標を見出した方もおられるかも知れません。いずれにせよ、皆さんが大学生活を通して、自ら問いを立て、学び、判断し、行動する力を培ってこられたことこそ、何よりの成果であり、その経験は、これからの皆さんが人生を切り開いていくうえで、大きな力となるはずです。

 皆さんの学生生活は、社会が大きく転換していく時期と重なりました。感染症の流行を契機として、学びの在り方や社会の仕組みは大きく見直され、私たちは「日常が決して不変ではない」ことを改めて学びました。皆さん自身の大学での活動は比較的平常に近い形で行われた一方で、社会の価値観や生活様式が更新される中、自らの将来像を描き直す場面もあったことと思います。そうした経験は、変化の時代において物事を見極め、しなやかに対応する力として、これからの皆さんを支えるはずです。

 そして今、世界はなお多くの不確実性を抱えています。国際情勢の緊張、自然災害の頻発、食料・エネルギー問題、地域社会の担い手不足など、私たちの前には複雑な課題が連なっています。こうした時代だからこそ、皆さんが身につけた専門的知見と実践力に、大きな期待が寄せられています。皆さんには、科学者として、専門職として、確かな根拠に基づく判断と、生命への敬意に立脚した行動によって、社会を支える担い手となっていただきたいと願います。

 加えて、近年の技術革新、とりわけ生成系AIの急速な発展は、研究、産業、医療、教育のみならず、私たちの日常の意思決定のあり方にまで大きな影響を及ぼしつつあります。生成系AIは知を拡張する強力なツールですが、これからの専門家に求められるのは、単にそれを使いこなすことではなく、「何を問うべきか」「何が正しいか」「誰のために、どのように実装するのか」を公共の利益に照らして判断することです。さらに、危機管理の観点からは、このような技術に頼れない局面も想定し、現場を支える判断力と専門職としての基礎的力量を、平素より磨いておくことが重要です。

 本学は明治14年、9人の陸軍獣医官が志を一つにして、文京区音羽の護国寺に開学した、日本最古の私立獣医学校を起源としています。以来、社会の要請に応えつつ、実学を礎に人材を育み、時代とともに歩んでまいりました。2031年には創立150周年を迎えますが、その歩みの核心にあるのは、「生命を護り、その価値を社会に活かす」という使命です。

 皆さんの式次第に記されている学歌第4節には、「人の世恵む鳥獣を、愛しみ護るも国のため、敬譲相和ゆるみなく、愛と科学の聖業に、いそしむ日々ぞさかえあれ。」とあります。この言葉は、本学の精神を象徴する一節であり、世代を超えて受け継がれてきた理念です。

 そして、本学は学是として「敬譲相和」を掲げています。これは、互いを敬い、謙譲の心を持ち、協調してことに当たる姿勢を示すものです。多様な価値観を認め合いながら、持続可能な共生社会の実現を目指す現代においてこそ、「敬譲相和」は私たちが拠り所とすべき精神です。そして、到達目標として掲げる「愛と科学の聖業を培う」とは、生命への慈しみを根に置き、科学の力をもって人と動物の幸福、ひいては社会全体の福祉に貢献する、その一連の活動の継続を意味します。皆さんには、この理念を胸に、専門性を研ぎ澄ますとともに、人としての品格と責任をもって歩んでいただきたいと願います。

 今日、「ワンヘルス」の視点はますます重要性を増し、さらに「ワンウェルフェア」へと広がり、人と動物がともに健康で幸福に生きる社会の実現が求められています。人獣共通感染症への備え、食の安全と持続可能性の確保、動物福祉の推進、災害時の対応、地域の産業と暮らしへの貢献――皆さんが担うべき課題は多岐にわたります。しかし同時に、それは、皆さんが社会に与え得る価値が、極めて大きいことを意味します。どうか専門の枠にとどまらず、他者と協働し、現場に立ち、学び続ける姿勢を貫いてください。

 人生100年時代と言われる今日、道は一つではありません。順風満帆の日もあれば、迷い、立ち止まる日もあるでしょう。その折には、自らの志の原点を思い起こし、同時に周囲の人々の声に耳を傾けてください。困難の中にこそ、新たな学びと成長の契機があります。何度でも学び直し、挑戦し続ける姿勢こそが、皆さんを高みへと導くはずです。

 結びに、皆さんが本日ここから旅立ち、それぞれの場所で人と動物、そして社会の未来を支える柱として活躍されることを、心より祈念いたします。母校は、いつでも皆さんを見守り、応援しています。

 本日は、誠におめでとうございます。皆さんの前途に幸多からんことを祈り、祝辞といたします。

令和8年3月5日
日本獣医生命科学大学
学長 鈴木浩悦