食のいま
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第38号: 伝統の器を楽しむ食卓風景 -7月-

7月7日七夕(たなばた)の食卓を飾る金沢漆器の椀をご紹介しましょう。椀底と蓋裏に梶(かじ)の葉と糸巻きが描かれており、さらに蓋裏には織りあげた布地もあしらわれています。
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現代の私たちが楽しむ七夕は、願い事を書いた短冊を笹竹に吊るし、夜には空を見上げて、天の川をはさんで向かい合う織姫星(おりひめぼし-こと座のヴェガ)と牽牛星(けんぎゅうぼし-わし座のアルタイル)を見つけようと目を凝らすのが通例ではないでしょうか。しかし、実際のところ7月7日は梅雨の時期なので、晴れた夜空に恵まれることは少ないですね。また、このような現代七夕のすごし方と椀の絵柄にはどのような関係があるのでしょうか。
布織りの名手織姫と牛飼いの牽牛の話は、もともと中国で生まれたものです。二人は織姫の父である天帝(てんてい、古代中国の神)に結婚を許されたのですが、新婚早々から布織りと牛飼いの仕事をサボってしまったため、天帝の怒りをかい、二人は天の川をはさんで引き裂かれてしまいます。そして、天帝が出した条件は、二人がまじめに仕事をするなら、年に一度旧暦の7月7日に会わせてもらえるというものだったのです。
一方、日本には古来から伝わる棚織(たなばた)の話がありました。これは旧暦7月に、村の娘が海岸の水面にせり出して作られたやぐら台(これを棚と称します)で織った布を神に捧げることで、村の災難を取り除いてもらうというものでした。
織姫と棚織娘、この二人の共通項である布織りが象徴となり、旧暦7月7日は布織りや糸で縫うといった手仕事が上達するように、さらにはいろいろな手習い事が上達するように、と願いをかけるようになりました。昔はその願い事を梶の葉(写真)にヘラなどを使って書き付けていたのです。
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次に、七夕に関する食材についてご紹介しましょう。中国の神話上の支配者である(こく)の子供が旧暦7月7日に亡くなり、悪霊となって疫病をはやらせたため、その子供が生前に好きだった索餅(さくべい)を供えて、これを鎮めたという話があります。このお話から、7月7日に索餅を食べることが風習となりました。「索」は手で縄を結うことを表し、また、「餅」は麦の粉をこねて蒸したものを指します。すなわち、索餅とは小麦粉を水で練って紐のように伸ばして縄状に編んだもので、中国から日本へは奈良時代~平安時代に伝わりました。別称で麦縄-むぎなわ-とも呼ばれ、その後、これが発展して素麺となります。そうめんを索麺とも表記するのは、索餅を原形としたことによります。
今年2009年の7月7日は満月が輝き、やや風が強くて、雲が月にかかったりきれたりといった天気でした。満月であったため夜空は明るく、天の川やヴェガ、アルタイルを見ることはできませんでした。実のところ、七夕は旧暦の日付の方が楽しむことができます。旧暦7月7日の月は7日目の月、すなわち半円状の上弦の月です。小学校の理科で習ったように、上弦の月は夕方の西の空に傾いて見えますが、すぐに地平線下に沈むため、月明かりのない夜空は暗くて星が見やすいのです。大学ご近所の国立天文台によりますと、今年は8月26日(水)が旧暦7月7日にあたるそうです。この日に夜空を観察してみてはいかがでしょうか。そして、天体ショー前の腹ごしらえの食卓では、七夕ゆかりの食材(結び素麺・豆腐・卵豆腐・茗荷)やデザイン(糸巻きや布にみたてた白身魚とパプリカの蒸し物・湯葉・ししとうがらし)を楽しんだり、旬のもの(鱚(きす)・冬瓜(とうがん)・青柚、いずれも7~8月が旬)を味わってみませんか。冬瓜は字とは裏腹に「夏野菜」です。長期間保存ができて冬季にもよく使われたことからこう呼ばれるようになりました。
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