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「この一冊」 一覧
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「この一冊」 - 図書の紹介- 200804号 | 「人間をみつめて」
人間をみつめて
神谷美恵子コレクション
(みすず書房)
人間をみつめて
みすず書房
2008/04/18更新 200804号
<科学とその愛、その思索のダイナミクス>
■
本学図書館には「神谷美恵子コレクション」(みすず書房、2004-2005年刊行)の5冊(・生きがいについて・人間をみつめて・こころの旅・遍歴・本、そして人)がそれぞれ分類されて書架にある
神谷美恵子(1914-1979)は、65年の生涯において、教師、翻訳家、医者など多様な職歴を重ねているが、とりわけ、精神科医として、ハンセン病患者の診療にその精魂を傾けたことで知られる。一家庭の主婦としての煩雑多忙な日常生活の中、瀬戸内海の小島にある国立療養所長島愛生園に通いながら、悲運の底にあえぐ人々に差しのべる慈愛の手はそのてらいのない文体からほうふつする。
この<人間をみつめて>の中には、今なお人の心を動かさずにおかない言葉が随所に見られる。<長島を見学してみて、はっきりとここに就職したい、という気になった。>これは昭和18年対米戦争真只中の神谷美恵子の志である。その後、当時の日本女性が受ける歴史的制約の中で、当然紆余曲折はあったものの、医学を介して絶望の淵に沈もうとする人々を救わんとする己れの使命を忘れることはなかった。
科学的・医学的な客観性と弱者への永続する愛、キリスト教徒ではあるが、他の宗教に対する敬愛の念など、救済へ向かう、その視点のダイナミクスは人々の苦しみを一つ一つ丹念に見つめ、彼らを救いたい一心からの所産であろうか。
「もし愛生園へいけたら!あそこで私はまた生気をとり戻すだろう。」、「愛生園のことを考えて胸がおどる。」神谷美恵子がこの仕事に向かうとき、その根底にあるのは強いられた義務感や苦痛ではなく喜悦である。むろん島での診療実践は苦労の連続であり、己れの弱さ、卑小さに打ちのめされる日々でもあるが、病弱な体になお初心はなえない。<苦しみというものは、人間が初めて人間の生の条件を自覚する契機なのだと思う。>
人それぞれが負っている逃れがたい宿命。それを受け入れ、耐えた末に見える一条の光、生命力、その不可思議さ。神谷美恵子の思索は時代を超えて、広く、深く普遍的である。
図書館 事務室長 松渕 昭夫