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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
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細胞周期
細胞増殖の制御メカニズム
(カラー図説)

細胞周期:細胞増殖の制御メカニズム(カラー図説)

The Cell Cycle:Principles of Control
David O. Morgan著、中山敬一・中山啓子監訳
メディカル・サイエンス・インターナショナル(2008年5月)
2008/09/12更新 200809号
<良書には一つの思想の流れが>

<すべての細胞はすでに存在していた細胞が分裂することによって生じる。すなわち、今日生きているすべての細胞の祖先は、30-40億年前に存在したたった1つの細胞であると考えられる。>
専門家でなくても先を読み進めたくなる全12章第1章の書出しである。
単独執筆、6年を費やしての労作であり、一つの細胞に無限の時の流れを見るような一著である。

細胞周期に関する情報はあふれているものの、これらのピースをはめこんでいって、全体像をつかむにはどうすればよいか。本書は、この困難なこの問題を解決へと導くための一つの試みであり、細胞分裂とその分子メカニズムについて、理論だった構成で、膨大な知識を体系化し、簡明な手引書を提供しようとするものであると冒頭にある。

構成に関しては、重要な原理を中心にまとめてはいるが、細胞学者による主要な現象についての記述、生化学者によるそれらの現象の根底にあるタンパク質構造と化学反応の原始レベルの分析まで、細胞分裂に関して積み重ねられるすべての知識の一端を紹介し、<これらはすべて重要であって、“いわゆる詳細”は省いていない>とする。
その上で、<“詳細”は存在しない。すべてのことは全体の一部にすぎない。本来、少宇宙と大宇宙は一つなのである>と、建築家Le Corbusierの弁を借りて述べている。換言、一つの細胞と大宇宙は一つなのである。

第1章で細胞周期の過程について簡単な説明と細胞周期制御の鍵となる概念の紹介があり、第2-3章では、細胞周期の研究が行われているモデル生物を挙げながら、細胞周期機構の構成要素とデザインについて述べている。これらを基礎に、残りの章で細胞周期の各段階についてより詳細に解説する構成になっている。第4章では染色体の複製、第5章から8章では細胞分裂、第9章でから11章では細胞周期に関連する様々なトピックを取り上げ、最後の12章では癌についてとりあげている。

図もカラフルでわかりやすく、単著であるので、知識の寄せ集めではなく、全編を通じて一つの思想を感じ取ることができる良書であると訳者も賞賛している。


図書館 事務室長 松渕 昭夫