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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
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分類番号は930.26。肝心の食に関する記述はどうだって?もちろん堪能しました。バタつきパンとか、ミンスパイとかシードケーキとか、懐かしかったなぁ。最初に読んだ頃は、どんなものかわからないまま、おいしそう、とか思っていたような。

<食>で読むイギリス小説-欲望の変容-

安達まみ・中川僚子( ミネルヴァ書房 2004年)
2010/08/02更新201009号
読書中に「あ、次はこれ読みたい」を見つけた瞬間、プチ幸福感がチカッと光るね。 面白い本を読んでいながら、もう別の本を読もうとアタマのすみっこで考えてるわけだから。この贅沢さ。罪深さ(なんだそれは)。ブック・サーフィンの醍醐味。

本書は、英国文学を<食>の視点から見るという趣向の一冊である。
第一章では、英国の食の歴史に文学から迫る。紅茶、陶磁器、食事の時間、料理人といった“視点”が面白く、新たな発見が幾つもあった。第二章は、著名な作品を<食>の観点から捉える章。チャールズ・ラムの《焼豚論》(これ面白いよ!知らなかったけど)、J・オースティン、ブロンテ、ディケンズ、エドワード・リアとルイス・キャロル(さすがに大御所ばかり)。お馴染みの作品、敬遠していた作品でも、食から読めばイケそうな気がしてくるから不思議である。第三章は少々哲学的に、<食>を通じて著される“生き方”を語る。テーマはJ・ジョイス、漂流譚もの、農村社会、晩餐会。
一見、おカタそうな本でしょう。なんか、読んでてチラッと退屈しちゃいそうな…。
違うのである。
次々に登場する食べもの、飲みもの、食器、食べ方…やはり食に関する本は、読んで楽しい。特に本書では<食べるシーン>を読むわけだから、美味しそうならわくわくするし、不味そうなら興味深く読むだけ読んで通り過ぎればいい(すぐ別の美食シーンが出てくるだろう)。
そして、食のシーンを通して見ると、なんだかどの小説も意味深で、生々しくて、匂いたつほど面白そうである。生き生きしているのである。<食>の底力はすごかったのである。

これらの小説、けっこうこの図書館の中で読めちゃうのだよ。
たびたび登場する『嵐が丘』『ジェイン・エア』『エマ』『クリスマス・キャロル』はもちろん、『ハワーズ・エンド』『ロビンソン・クルーソー』そして《焼豚論》、プルーストの『失われた時を求めて』(有名な“紅茶にマドレーヌを浸す”シーン)まで、邦訳が当館にあった。『網のなか』みたいなマイナーなのまで、あった。それに『西洋陶磁入門:カラー版』『ジェイムズ・ジョイスの謎を解く』『自負と偏見のイギリス文化』などの新書もサーフィンできそうだし、『ロンドン 食の歴史物語』も見つけちゃった。
さらに、いま、みんなが借りている英語のリーダー本、あそこに本書登場の猛者どもがワサワサいたのだよ。 お薦めの掘り出しモノは、本書の「ティー・テーブルの快楽」にある『クランフォード:Cranford』(Level.4。『赤毛のアン』とか好きなひとは、これチェック)、「ディナーは何時にとるべきか」の『ボートの三人男:Three Men in a Boat』(Level.4。ユルい笑いがお好きな方にはオススメ)、「サバイバルと食」の『スイスのロビンソン:The Swiss Family Robinson』(Level.3。一時期ハマった)、「晩餐をめぐる欲望のかたち」の『幸福:Bliss』(Level.4)と、『園遊会:The Garden Party』(Level.4と5)は『マンスフィールド短編集』に収録されている。
なお、リーダー本では食事の様子などがカットされていることも多いので、細部まで愉しみたい方は、どちらかで邦訳をお求めください。レアな本もあるので、夏休みに地元の図書館へどうぞ。


図書館 司書 関口裕子