図書館MENU

「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
猛禽類学

猛禽類学


山﨑 亨[監訳] (文永堂出版 2010年)
2011/11/15更新201121号
分類番号は488.7。Chapter.21の「飼育下繁殖」では、二木謙一氏の『戦国織豊期の社会と儀礼』まで引用されているんですよ!(戦国時代には鷹が贈答品だった)。いやー、まさか猛禽類の専門書で引用されているとは思っておられないのでは。
分厚い一冊である。そして大判である。内容もインパクトも重量級である。
原著の初版は1987年にアメリカで発行された(この時のタイトルは『Raptor Management Techniques Manual』)。すぐ品切れになったらしい。420ページに及ぶ力作であった。
残念ながら発刊元の猛禽類情報センター(アメリカ)は閉鎖されたが、猛禽類研究財団が改版作業を引き継いだ。タイトルも『Raptor Research and Management Techniques』と改め、もはやマニュアルなどと言う概念を超えた、猛禽類総合書とも呼ぶべき大著として、堂々刊行。その翻訳版である本書タイトルが、原題の直訳なら『猛禽類の研究と保護管理』であるのに、敢えてこうなっているのも頷ける。

筆者が本書に惹かれたキッカケは、監訳の山﨑亨氏の「はじめに」という一文であった。
「…各著者は、担当分野に関して、長期間にわたって第一人者として関わってきた研究者であり、強いこだわりをもっている。猛禽類研究者は、元々個性的な人が多いうえに、自分の専攻しているテーマに関する思い入れがとても強いため、単に知識や方法を紹介するだけではなく、そのテーマに関してどのような姿勢で取り組むべきかという示唆もぎっしり詰められている。したがって、その文章にもそれぞれ強い個性があり、翻訳するのは至難の業であった…」
翻訳者に名を連ねておられるのは、猛禽類医学研究所の齊藤慶輔氏はじめ、専門家ばかりというのに。そんなに大変だったのか、おい!
慌てて猛禽類研究財団会長の序文を読み返してみると、今度は米国のレジェンド的振付師G・バランシンの「すばらしいアイディアの背後には、ぞっとするような心身を疲れさせる仕事が存在している…」なぞという物騒な言葉が引用されているではないか。
翻訳も大変なら、原著の刊行も大変、そう創り手に言わせた本書は、ナンなのだ?!

それはすなわち、猛禽類学の特質に他ならないと思う。猛禽類は生息密度が低く、しかし生息範囲は広く、されど崖やら高所やら難所が多く、よって発見も観察もきわめて難しい。であるが魅力的なのだ! Chapter.4の「研究構想とデータ管理、分析および発表」において、著者のJames C.Bednarz氏はこう書き始めている。
「はじめに言いたいことは、猛禽類を対象とするよりも他のものを対象に研究を考えた方が良いのではないか、ということである」
こんなツレナイことをしょっぱなに書いているくせに、彼の章は研究に関するあらゆるディテールが惜しげもなく書き尽くされている。彼だけではない。どの著者も「ここに書かずにいられない」「ここで書いておかなければ」といった情熱で自らの担当分野を鉄壁にしている。
目次をまずはじっくりご覧ください。猛禽類の文献から始まって、識別や分類、研究・調査・観察手順、いやもう、巣への接近の仕方や捕獲やマーキング方法や追跡のありとあらゆる可能性まで、それにもちろん猛禽類の生態や病理関連もバッチリ、さらに保全や繁殖やリハビリやPR活動、果ては法的な問題まで、考えつく限りの「猛禽類情報」がギッシリである。参考文献もガッツリ添えられている。この一冊を手にとり、圧倒されなかったらこの世界にかかってきなさい! 覚悟があるなら一緒に進みましょう!と言い放たれた気分だ。こんな本を待っていた、という人が、ゼッタイに沢山いるはずだ。

ウィングマーカーを装着したハクトウワシや愛らしいヒナ達、断崖絶壁でニッコリ微笑むクライマーなどの写真をちりばめた表紙が魅力的な本書は、どこをとっても迫力満点、黒々としたゴチック体の「猛禽類学」というタイトル字まで惚れ惚れする。いやぁ、これくらい愛と情熱に満ち溢れた専門書も珍しい。

図書館 司書 関口裕子