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「この一冊」 図書のご紹介

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古代ローマの食卓

古代ローマの食卓


パトリック・ファース著 / 目羅公和 訳( 東洋書林 2007年)
2012/05/01更新201209号
分類番号は383.8。チュニカ、ララリウム、ポピーナ、リグラ、ルディクス…あのマンガに出てきたアイテムがてんこもり。テルマエ(浴場)に関する記述もある。読むと確かにあの世界がよりリアルになる。映画を観る前に、いや観てからも、ぜひ。

本には「読みどき」ってものがある。ちょうど興味を持っていたとか、ニュースで見たとか、マイブーム中とか。本書も、普段なら眠くなりそうな専門書だが、今なら大丈夫! だって古代ローマと言えば…そう、一昨年あたりから話題の“風呂マンガ”、あの帝政ローマ時代の浴場建築技師がニッポンのお風呂でびっくりドキドキの大ヒットシリーズを読んでいるもの! 案の定、本書を読み進めてみると次々に「おぉ、あのシーンのアレが!」というアイテムが登場し、ウフフなことこの上ない。ひとつ、ご紹介してみたい。

古代ローマといってもめちゃくちゃ期間は長い。265年間もあった江戸時代はまだ終わってからこっちの方が短い位だが、古代ローマはローマ帝国になってからだけ換算しても、東西に分裂するまでですら江戸時代を軽~く超える。ズルズルしたシーツみたいなヤツ(注:トーガ!)を着ているあんな時代、とひとくくりにするにはちょっとムリな長さなのだ。本書でも、ロムルスとかレムスとか、もうレジェンドな建国時代にはなかなかシンプルスタイルだったローマ人が、だんだんと現代人も真ッ青のアーバンな大都会ライフを満喫するようになる。特に食! 食べることにかけてはやはりニンゲンはどこまでも創造力に溢れてるのだ。
本書ではけっこう詳細に古代ローマの「メニュー」が紹介されている。まず驚くのがその味つけだ。ローマなんだからイタリア~ンと思ったアナタ! かの浴場建築技師が秋田県と思われる温泉でしょっつるの料理を食べ「魚醤(ガルム)!」と感激するシーンを覚えてますか? もりもり食べていましたね? そう、彼は魚醤に慣れ親しんでいたのです! 読めば半数以上のレシピに魚醤が入っているから驚きである。魚醤ってナンプラーとかニョクマムですよ。そしててんこもりのスパイスやハーブ! それもバジルとかじゃない、なんといちばん人気はクミン! カレーか?!と混乱しそうな匂いが想像される。冒頭で注意されるが、トマトは新大陸アメリカからもたらされるのだ。トマトが除外されたイタリア料理、それが当時の食卓なのだ。
そういう衝撃の事実から始まって、正餐は寝そべって食べるというテーブルマナーではどう食卓に着くかのビジュアル説明、指が汚れたときの驚きの奴隷の使い方など、いやー、読んではみるものです。それだけは言える…。
それにしてもローマの版図は広い。広すぎる。そしてその植民地からごっそりと食物を輸入して享楽のメニューを供していた。ガルムだってモロッコから輸入していたという。ベルギー、ブルターニュ、アフリカ、エジプト、トルコ…それらから最先端の暮らしを築き上げたローマ人だったからこそ、あの浴場建築技師はニッポンの文化に驚愕したのだ。

「歴史的興味をそそるから載せているだけ」と断り書きを掲げた本書、何がって後半はレシピ集である。一応、読めばつくれる(らしい)。すごいけど。木の実のタルトにまで魚醤が入っている…卵入りだから、エッグタルト的なものかなぁ(いや、違う匂いがする)。
ただ、なにもかも現代と違うかというと、全然そんなことはない。メルカと呼ばれるヨーグルトや、果物の食べ方は現代に似ている。カテージチーズなどを朝食に食べている。菓子パンみたいな甘いパンを含め、パン文化も花やかだ。
ワイン、ビールももちろん愛飲! ムルスムやアクア・ムルサだって要するにハニーワインの親戚みたいだし、パッスムというのは干しぶどうワインだから今でもイタリアにヴィーノ・パッシートがある。おいしそう、と思うレシピだってちゃんとあるのだ。
ただ、時々びっくりするだけなのだ。

びっくりを味わうだけでも本書はイケている。でもゲテモノが嫌いな方は要注意である。

図書館 司書 関口裕子