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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
骨

骨 <改訂新版>


鈴木尚( 学生社 1996年 )
2012/10/01更新201217号
分類番号は469。江戸末期の天保の時代、発見した人骨のために供養の句会を催した俳人がいたと、発見した碑から語られる。味わいのある章である。我々が過去を振り返るように、彼らも振り返っていたのであるよ。しみじみ。

思えば大河ドラマ『独眼竜政宗』、ラストシーンには政宗その人の頭蓋骨が登場した。
これ、再放送で思い出したのだ。そう、確かに筆者は、どこだかのテレビで政宗の髑髏を見た記憶があった。そっかー、王道の大河ドラマでだったか。
幕末の場合は人物の写真まで残っていたりするけれど、戦国時代は肖像画どまり(それも本人だかどうだか)。墓さえ不明な場合があるのだから、ホネなんて、ぐっとリアルさが増すというものだ。
さて、本書に目を止めたのは、目次にこの名前があったから。
石田三成。
関ヶ原の合戦は9月15日。10月1日が六条河原での三成処刑日だから、今はちょうど命日にあたる頃である(いや、旧暦だから実は違うのだが)。この時期手にとったのも何かの縁。最近割と近刊ばかり取り上げているので、少々古めかしい本書を拝読してみよう。

わたくし。わたくしども。
本書に多く散らばる一人称である。この、どことなく古風な文章が<骨>という主題にあいまって、独特の雰囲気だ。著者は東大の名誉教授であった著名な人類学者で、とにかく多種多様な<骨>から日本人の形質に迫り続けた方だそうで、そういう方が「人骨や発掘に関するこぼれ話」を縷々綴ったというのだから、なまなかな内容でない。
冒頭が「原人の発見」という章であり、デュボアによるピテカントロプス発見の経過が綴られるので、なんだ、別にご本人がらみのエピソードじゃないのね、なんて思っていたら、いえいえ、そんな事はなくて。つづく北京原人の項で、この大発見の化石が太平洋戦争直前に行方不明となった経緯が語られ、なんとGHQによる捜索の過程に著者ご本人が登場する。えっ北京原人の化石って紛失してたの?!その上、GHQですと! ここまで派手でない章にしても、その文章の巧みさで、ついついホネ抜きにされてしまう。「人を食った話」なんて、章タイトルのつけ方もニクいではないか。

それにしても随分とまぁ、ホネとは語るものである。添えられた写真はモノクロだが、それがかえって生々しい。石槍が刺さったままの頭蓋骨なんて、嘘のようだがホンモノである。埴輪や源氏物語絵巻、浮世絵など当時の工芸品を示しつつ、デフォルメされて見えるそれらが案外真実であることを示唆するなど、こんな芸当が可能なのも、各時代のホネを見続けた著者ならではだ。
後半には奥州藤原氏のミイラ、増上寺の徳川将軍家の墓、皇居で発見された人骨など、タイトルだけでも魅かれるセレブなホネたちが登場する。源頼朝派遣の討伐軍に弑された藤原泰衡の首のくだりなど、その十三ヵ所の傷が首の落ちる瞬間まで凄絶に物語っており、トドメに釘打の刑の跡ときた。うぉぉ。写真を見てもそれは無残なものだが、クールで詳細な検証のリアリズムといい、迫力満点で、こ、こわい。徳川家の墓についても、開ける過程から綴られていて、まるでそこにいるかのように感じられる。最終章に至っては、現代の殺人事件のホネまで登場して、いやいや、一冊にはまことにてんこ盛りな内容なのに、この<骨>で貫かれた白色の統一感。こんな一冊があったのですね。

ところで石田三成。政宗と同じく頭蓋骨が登場した。「最初女骨と思はれた」ほどの「憂さ男」(いい表現ですね)な髑髏の写真は、よく言われる「さいづち頭」で、さすがに本人のホネのリアルさである。それにしても…その歯…横顔の写真を見たら一目瞭然。聞いてはいたけれど、こうまで顕著だとは。ご存じない方は、ぜひ、本書で! いや、でも端正なお顔立ちです。頭蓋骨から作成した顔の造形、見てみたいなぁ。

図書館 司書 関口裕子