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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
先生!シマリスがヘビの頭をかじっています! ‐鳥取環境大学の森の人間動物行動学

先生!シマリスがヘビの頭をかじっています!
‐鳥取環境大学の森の人間動物行動学


小林朋道( 築地書館 2009年 )
2013/01/22更新201301号
分類番号は481.78。筆者もとぐろを巻いたアオダイショウと正面からご対面したことがあるが、あれはなかなか迫力があるものです。ケージ越しとかでなく、素ですぐそこに居たので、一瞬固まった。貴重な経験だったが、もちろん触ったりはできませんでした。

巳年、ですね。
ヘビオンリー本でこそないが、本書、絶好のタイトルである。とうとう本シリーズをご紹介するときが来た! 新年だからこそのご祝儀回、他大学の本でも気前よくどどんとお届けしよう。これを読まないのはゼッタイ損である。

今回のこのタイトルは「先生!」シリーズ2巻目に当たる。シリーズを通して内容はシンプルで、著者である小林センセイが、緑豊かな大学とその近辺を舞台に周囲を巻き込み、日々の発見に邁進する。それらの顛末記だ。
読めばわかるがこのセンセイ、ちょっと珍しいくらいユーモアセンスがある(ありすぎるかもしれない)。動物や学生のことに熱心だ(熱心すぎるかもしれない)。そして、前向きに物事を捉えられる(前向きというのは控えめな言い方かもしれない)。
そしてちゃんと自分自身に客観的である。彼は、アオダイショウのアオくんを研究室で飼うことが、ちょっとどうかなと思われることを承知している。センセイ自身、ヘビを見た瞬間は人並みにコワくもあるらしい。でも、飼っている。アオくんは、アカネズミやヤギと「出会わせられた」りすることでセンセイに協力してくれるからだ(自発的にではない)。時々脱走するのはご愛嬌(おそらくアオくんには不本意な表現)だろう。
こういうセンセイに、喜んでついていく学生が絶えないところが、また、いい。イノシシ捕獲作戦にも果敢に参加し、「ヤギ飼ってみない?」とうっかりセンセイが口にしたら速攻で「ヤギ部」を立ち上げ、顧問に逆指名する逞しい面々だ。
こういうキャストで日々を送っていると、アナグマの子どもに足元にまとわりつかれたエピソードをセンセイが話しただけで、数日後にはこうなるのだ(※1巻収録)。
「先生、アナグマの子どもを捕まえようとして母親に襲われたそうですね」

ちなみにこのアナグマエピソードは何も「ほのぼの挿話」としてあるのではない。
センセイは「これは“言い伝え”という現象ではないのか?」と早速構想し、手繰っていくのである。センセイの行動は輝かしい二つのものに貫かれている。好奇心と探究心。そしてその二つを支えるエネルギーが、溢れる想像力と行動力であると、筆者は思う。
「因果関係を把握しようという強い欲求が人間にはある」と、センセイは語る。が、それは実は、人によって量がものすごく違うのだ。それを知っている人こそ、本シリーズを読んで嬉しくなってしまう人ではないか。ここに、周囲を誘うように、導くように、笑顔で先へ先へと探索していく先達がいるぞ。やってくれるぞ!と。

タイトルにある「ヘビの頭をかじるシマリス」は、本来の動物行動学としてとても興味深いエピソードである。なんたって、リスが、ヘビをかじる!のだ。絵的に想像しがたいが、写真もあるから必見である。センセイはこの行動について二十年以上前に発表し、その論文は大変話題になり、日高敏隆先生が「SSA行動」と名づけたそうだ(あぁ、また本コーナーのアイドル・日高先生に遭遇した)。
とにかくさまざまな動物と行動が登場する。センセイの情熱は、ほとばしるあまり論文だけでなく本シリーズまで生んでしまったわけだが、さらに嬉しいことに、センセイが追う対象は、人間にも及んでいることだ。人間もまた、動物であって、センセイにとっては、興味深い対象であることに変わりはないようである。愛すべき対象としても、また。

いやいや、こういうまっとうに前向きな本というのは、きょうび、貴重である。次巻も入れるぞー。

図書館 司書 関口裕子