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日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
犬と猫と人間と Dogs,Cats & Humans [DVD]

犬と猫と人間と Dogs,Cats & Humans [DVD]


監督:飯田基晴( 映像グループ ローポジション 2009年公開作品 )
2013/05/21更新201306号
分類番号は778(視聴覚資料コーナー)。6月1日公開の『犬と猫と人間と2 動物たちの大震災』に先立って。本学のある武蔵野市でも行政・ボランティア協働による地域猫の会が成果を上げている。自分に出来ることは何かを知りたい方々に、本作をお届けしたい。

なんと! この映画は、ひとりのおばあさんの依頼で始まった企画だという。本作冒頭で語られた事実にびっくり。ずっと猫たちの世話をしてきたというその女性は、ごく普通の、やさしそうなおばあさんだった。監督である飯田氏は、自分の映画の上映時にいきなり声をかけられ「半信半疑だった」という。こういうお金の使い方を考えついた彼女に、つくづく感服。すごいのひとことである。
しかもしかも。監督自身は別段、動物好きではなかった。「僕でいいんですか?」と戸惑う監督に、穏やかに答える彼女の言葉が、また、いい。
「あたし、人を見る目はけっこう、確かなのよ」

動物たちの命の大切さを伝える映画を、撮ってほしい。もう先も長くないし、少し自由になるお金があるから―。
お金を寄付するのではなく、メッセージを伝えることを選んだ彼女の気持ちを思うと、涙が出る。確かに、この国の犬や猫―幸せそうなペットたち以外の―を取り巻く環境は、本当に厳しいのだ。DVD特典映像として杉本彩さんと監督とのトークがあるが、動物愛護活動でも知られている杉本さんは当初「観るのがこわかった」と語っていて、筆者も激しく同意した。そう、知っているからこそ、つらい現実を目の当たりに観るのがこわかった。

確かに、つらい映像も、あった。
捨て猫、捨て犬に関する問題を考えるとき、避けて通れない「殺処分」。本作でも、刺激的すぎるような映像こそ無いものの、監督はきわめて淡々と現実を映している。また、動物愛護協会やボランティアグループを始めとする、終わりのない活動を続ける方々の、ほんとうに果ての見えない現状も、胸に迫る。筆者が個人的に活動を追っている支援団体の方に聞いても、その状況は、聞いているだけで呆然とするくらいなのだ。
人間であることがイヤになる。
特に動物好きではない、と語った監督にまでそう言わせてしまう、この国の現状はもう、どうにもならないのか。こんなにまで努力する方々がいても、ダメなのか。
問題は、そういった苛酷な状況が、犬猫に限らず山のようにあることだ。いつもどこかで、誰かが途方に暮れている、それが現実なのである。犬猫のことを憎からず思っていても、手がまわらない人だって沢山おられるだろう。日本動物愛護協会で附属動物病院長をされていた前川博司氏も、本作でこう語っている。
「誰だって追い詰められたら、動物愛護なんて吹っ飛んでしまう」

では、この映画は、観ていてつらいばかりなのだろうか。
違う。そこを、言いたい。こんなにジンとくる映画も、ちょっとない。
本作は、フツウの人々の心遣いや、つらい状況下での侠気や、ささやかだが確かな成果を見逃さない。現実を見据えながらも「見捨てずに」「減らしていく」という基本のもと、よりよい方向へと旗を掲げる方々は大勢いるのだ。また、拾った子犬に奮闘する子供たちや、学生活動家、犬のしつけのトレーナーの方々にもカメラが向けられている。作品中で語られる「理想と空想は、違う。出来ることからやっていく」という言葉は、誰をも勇気づけるだろう。
本作で描かれる素敵なエピソードの数々は、ファンタジーではない、現実に起こった、輝かしいほんとうの出来事なのだ。

監督の目線も、やさしい。愛護協会事務所に入り浸るひょうきんな野良猫など、ユーモラスな描写の挟み方に救われる。彼はまた、処分に関わる人々の愛情にも目を注ぐ。
本作の完成を観ずに逝ってしまわれたという、依頼主の女性に拍手を贈りたい。
貴女の目は、本当に、確かでした。
DVD特典として、トーク映像の他に、登場した動物たちのその後や未公開エピソードもあり。本作劇場公開をご覧になった方も、パート2公開前に、ぜひ再び。

図書館 司書 関口裕子