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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
食の終焉

食の終焉 ―グローバル経済がもたらしたもうひとつの危機


ポール・ロバーツ(ダイヤモンド社 2012年)
2014/07/25更新201406号
分類番号は611.3。本学の進路支援図書にある『アイガモがくれた奇跡』の古野さんについて記述があります。さすがの目配り。衝撃的だけど、読んでよかった。

500ページ以上! だがスパッと読了。小説でもないのにこのページターナーぶり! これは書かねば、と即決したが、さて、どこから書けばいいやら。
この本、何がコワいって、ラスボス的なものに責任を丸投げしていないのがコワい。
現代の「食」の内幕をあばく書きっぷりはリッパなもので、第2章「すべては利便性のために」を読めば、おなじみの大手メーカー達を相手に縦横無尽に刀を振るっているさまに圧倒されると思う。やっぱり巨大産業ってコワい、と思わずにいられないハズだ。
が、第3章になると、返す刀で今度は小売業界を切り刻む。巨大チェーン店の豪腕ぶりには、消費者だけでなく、あれほど横暴に思えたメーカーさえ意のままなのだ、と読めてしまう。そうか、まだ第3章だし、と気を引き締め、その勢いで第4章「暴走する食システムと体重計の目盛り」に至るともう、読みながら自己嫌悪にまみれてしまいそうになる。現代人の食生活を赤裸々に描くとこんなにもグロテスクになるのか。
これらの章、ニクいことにどれも弾劾するだけでなく、そうなった事情についてもキチンと考証している。そもそも第1章で、なぜ食生活がこうもグローバル経済で覆われてしまったか、順序立てて説明される。読むにつれ、納得するだろう。とにかく本書、お手並みはバツグンで、全部鵜呑みにしそうになるのである。なんだか自分の客観性に自信がなくなってくるほど、説得力ありありなのである。
「これだけ食べ物があふれていながら、まったく飢えの根絶には近づいていない」
悲しくも鋭い一節ではないか。

食システムのグローバル化は、ひとつの国のエネルギー危機や政情不安が、その国の作物に依存していたすべての国に影響を及ぼすところに思わぬ破壊力がある。そして“いざとなればどこかから運んでくればいいさ”的な楽観性がみなぎっているため食の生産が極端に走りがちだ。舵を切ったら、切り返すにはまたエネルギーが要るものなのに。
そのおそろしさを初めて具体的に実感した。
有史以来、人口と食は連動していた。食が行き渡ればこそ人口は増えたのだ。が、第5章以降を読み進むと、人口爆発を支えたあらゆる活動が、もはや限界に近いとわかる。世界に広まる肉食(栄養は菜食に勝る)、その肉の生産が頭打ちになりそうなこと。限界まで広げられた農地、その農地に植えるべきは我々の食べものか燃料になるものか飼料となるものか(飼料を食べたものは我々が食べるわけだが)、優先順位付けが難しいこと。水不足、温暖化、土壌汚染、石油資源の枯渇(石油はすべての輸送を支えるだけでなく農業の労力にもなれば包装容器や加工工程の元にもなる)…と、あーもう、ここに書いているだけでお先真っ暗である。本来はさほど脅威でない大腸菌が、O-157という恐怖の存在になった背景にさえ、牛の飼料をトウモロコシに替えた事情があったなんて読むと、何やら罪悪感まで浮かんでくるからオソロしい。

特に耳がイタいのは、消費者の生活スタイルについてである。ラクな加工食品を選びがちなことや、スーパーですべて済ます購買行動、宣伝にヨワい嗜好性、飽食とグルメ化など。日本の状況にはそぐわない部分もなくはないし、やや極端な記述が多いかもしれない(国によって食生活などの違いはまだまだあるようにも思う)。だが、欧米流が広まりつつあるのは事実だ。そして諸問題解決のシステムが当面、見当たらないのもホント。遺伝子改良食品、オーガニック食品を取り巻く状況にも筆が及ぶので、まったくもって、容赦がない。

その本書が最後に触れるのが、地産地消、小規模経営といった小さな小さな動きだった。それらの積み重ねが洪水のような諸問題を押し返せるのか、その判断は読者に委ねられる。しかし秘密兵器・必殺技的解決案はなさそうだよと、それを言いたいがために、本書はこれほどまでの筆量で迫ってきたのではないかと思う。秘密兵器がないならば、強い意志をもって立ち向かう側が団結するしかないではないか。
読者をいっとき、現実に目覚めさせる破壊力を持った一冊である。渾身の一撃だ。

図書館 司書 関口裕子