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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
うな丼の未来 ウナギの持続的利用は可能か

うな丼の未来 ウナギの持続的利用は可能か


東アジア鰻資源協議会日本支部 編
2015/03/05更新201503号
分類番号は664.69。「ウナギをハレの日のご馳走に戻そう」という訴えは、すでにハレの日の鰻文化を知らない世代には響きにくい。どう伝えて、世論を高めるか…どうすればいいかなぁ。

ブクログで紹介するために、機械的に手にとった一冊だった。シンポジウムの書籍化本。巻頭に基調講演があり、演者が続き、それぞれ質疑応答がある。演者ごとに読めるので(短編集的)意外にとっつきやすい。本当にウナギが食べられなくなったら悲しいなぁ、と、機械的に終了~……が、あとで、じわじわ来ました、本書。

基調講演は日大の塚本勝巳先生。現代の「ウナギ安売り合戦」は、海外ウナギまで買い漁り、他国の食まで蝕んでいるとのこと。それに養殖ウナギは天然ものを育てただけで、卵からの完全養殖ではない(つまり現段階では、野生生物を食べているワケ)など。
では、獲り尽くさないためにはどうすればいいか。先生は訴える。
「天然ウナギを獲らない、売らない、食べない」(要・法的規制)、「異種ウナギは輸入しない、売らない、食べない」(種の表示の義務付け)、「鰻川計画の推進」(東アジア全域でシラスウナギのモニタリングを行う)、「完全養殖の早期実現」(ウナギの家畜化)、中でも強調されたのが「消費スタイルの転換」(一般消費者の意識改革)だ。安いウナギが出回っているが、本当は絶滅危機にある野生生物なのだ、豚や牛とは違う、という、思えば当たり前の事実だ。
つづく勝川俊雄先生は『ほぼ日刊イトイ新聞』でも漁業改革を提唱していた、漁業管理の研究者である。日本人がこれまで「食べ尽くして、次に移る」消費を繰り返し、ウナギだけでなく「食卓から魚が消える」ところまで来てしまったと説明。
このお二方で、かなり現状が把握できるように思う。「どうせ誰かが獲る」「そこにあるなら食べちゃえ」という悪循環を変えるには法的規制が必要で、行政を動かすのは世論の力だという勝川先生の結論も、塚本先生の講演に通じる。
それにしても、どの話もこういっちゃ不謹慎だが、面白い。例えば、先ごろのウナギの絶滅危惧種指定。あれは実は国内向けで、国際的なレッドリストはまた別の話という。さらに載っても法的規制力はない(!)、でもワシントン条約に載れば国際取引が規制される云々と、トリビア的に興味深い。また、びっくりな異種ウナギたちの紹介は生きもの奇想天外的にすごい(と、ここまでがセッション1)。
そしてセッション2では漁業界、養鰻業界からの講演。そう、ウナギを憂うのは研究者だけではないのである。なんと蒲焼商の方も登場「安さだけでなく、職人の技を。鰻食文化を絶やさないよう勉強会もして、親ウナギは使っていない」とこれも切実な訴えだ。
さらに報道関係者。さすがに内容はわかりやすく、現況をよく捉えている発表と感じた。ウナギ報道は手ぬるいとツッコミが入る質疑応答がまた読みどころである。
そして行政から、環境省登壇。ウナギ以外も問題山積だがウナギも勿論頑張る「もう、悪者探しよりやれることをやらないと」と、ここはここで、現場感がある。次に水産庁。「ご批判を受けに来ました」と低姿勢だが「ウナギ保護は国際的な問題で、一筋縄ではいかない」と、中国とのやりとりを紹介するなど、ここなりの現実的な意見を呈してくる。ウナギは日本の海だけを泳いでいるのではないからである。
総合討論では「ウナギ以外だって、ひっそり絶滅しかかっている生物は多い」と、これまたもっともな意見も出て、いやぁ、もう世の中が問題だらけなのが見えた気がする。ひとつのことにも多くの人、沢山の業界が関わるのだ。千客万来なのだ。
厭世的な気分でウナギを思う頃、〆てくれたのが、やはり塚本先生だった。
「ワンコイン弁当のような現代のウナギ食をとやかく言うのは、大きなお世話かもしれない」おお、さすがだ。安いからこそ、みんな食べられるという声もあるはずだ。
「しかし、ウナギはやはり野生生物で、残念だがこの消費スタイルでは、もうもたない」
…そうなのである。
「ウナギを食べるなら、ハレの日のご馳走として、大事に食べよう」
消費者の意識改革が、やがて世論となれば、行政を動かす。そのために研究者が懸命に、声を上げ続ける、と結んだ。この熱意がなぁ、読後に残るのだよ。
本書は、研究と生活との関わりを見る好例だ。研究は生活を忘れてはいけないが、研究が生活を導くべきときもある。また、問題解決というのはタイヘンなのが当たり前で、突破口を見つけていくしかない、と再認識もした。いろんな意味で、味のある一冊だった。
それも本当に、ウナギだからこそかもしれない。間に合うなら、どうにかしたいではないか。こんなにおいしいものが、この世から絶えてしまう前に。

図書館 司書 関口裕子