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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
鳥の骨格標本図鑑

鳥の骨格標本図鑑


川上和人 著:中村利和 写真 (文一総合出版 2019年)
2020/07/15更新202004号
分類番号は488.1。本書をつくづく楽しんだせいか、ビロードキンクロのくちばしのコブには、夢と希望と明るい未来が詰まってる気がしてきました。

フクロウ好きなくせに「耳の位置が左右でずれている」という知識を知らないまま生きてきて、本書に指摘されびっくりした初心者で恐縮ですが、推させていただきます。
じっくりとすみずみまで、ホネまでしゃぶるが如くご堪能いただける一冊です。
各鳥のオフホワイトな骨格写真(骨がカラフルだったらそれこそびっくりだ)と、現世でのお姿のカラー写真、そして解説や本文が並んでいる、シンプルっちゃあシンプルな構成です。さくさく読めるでしょう、と思いそうですがアナタ、それはもったいない!
お姿写真に添えられた2行ほどの文にも「(雷鳥は)雷獣を好んで食べる益鳥」とサラっと書いてあったりして、これは江戸時代の書物『譚海』にも「雷鳥の絵は雷除けの御札になっている」と書かれているトリビアです。雷が鳴ると高山の巣穴から暴れでる雷獣を、すかさず捕らえてくれるありがたい鳥がライチョウ、と思われていたんですね。絵には後鳥羽院の「らいの鳥」の歌が添えられることもあったとか。
どれもホントに「サラリ」と書いてあるので「?」と思ったらどんどん調べながら読みましょう。ホオジロの説明には「美しい声で鳴きながら、一筆啓上仕り候」とあったりして、“聞きなし”を知らない人にはなんのこっちゃ。モズの「ハヤニエをたくさん作ると歌が上手くなる」という知見など、つい最近話題になったばかりのホットなネタでございます。
色鮮やかで愛らしかったり、凛々しかったりする鳥類の、飛ぶことに特化した骨格は、まさに饒舌。ベニコンゴウインコのくちばしあたりなんて、先生じゃないけど絶対に絶対に噛まれたくないですね。また、丸くてかわいらしいフォルムのベニマシコなどが、実はながーい首を持っていることも百聞は一見に如かず。ミミズクたちも、思いのほか脚長で小顔! さすが猛禽類と惚れ惚れしました。
筆者、本書ではじめて「確かにアナタがたのご先祖さまは、まごうかたなく恐竜でしょう」と納得いたしましたよ。もう、そう思うよりほかはなしという感じ。

それでも先生は「どこに注目すべきか迷う人もいるだろう」と危惧なさって見どころをマークしてくれています。それだけでなく、筆がノッたのか、はたまた編集さんと「カルトに行きましょう」という方針にキメたのか、やたらツッコミどころ満載です。
巨大原子力潜水艦としんかい6500のフォルムの違いがわかったり、宮沢賢治のファンだったり、T-800が「なんで人間が泣くのかわかった」と言う名場面を知っていたり、仮面ライダーの見分け方に自信があったりすると、本書はよりディープに楽しめるはずです、と申し上げておきましょう。
あ、わからない場合は「用語の解説」を読みましょう。いや、わかってても読みましょう。ガンダムやアメコミ、プロレス関連から駄菓子、バイク、生命科学(もちろん鳥も)の知識まで、この2ページだけでも一読の価値があります。

各解説のこまやかさについては、それはもうご心配なく。ヤマシギの「ハニカム構造のような」特徴あるくちばしの先端に、触覚だけで土壌生物を探り当てるスバ抜けた神経孔があることなど、やはり骨格を眺めるだけでは実感できません。ノガンも個体によっては軽量マウンテンバイクぐらいあり、それが空を飛ぶことは「言われてみればすごい」とわかります(ノガンは有毒のツチハンミョウを食べて体内の寄生虫を駆除する「意識高い系」だそうです)。ただ、先生のご説明はときに自慢げで「親戚か!」。アカゲラについて「あんなに木に頭を打ちつけて大丈夫かとしばしば心配されるが、大丈夫らしい。本人がそう言っていたのでまちがいない」などと書いておられます。

宇宙人が本書を研究してたら面白いですね。「トビの体の半分は油揚げでできている」なんてありますよね。「下仁田ネギをコガモは背負えないとあるが、大きなカモは背負うものなのか」なんて悩んでくれますかね。先生自身「キジがもういたからアオジは黄色いのにアオジになったと昔先輩から教えられた」と書いてから「多分嘘だ」とわざわざ追記しておられますけど、本気にした方はずっと覚えてるんですよ!(筆者がナニを本気に信じて育ったかは恥ずかしくて言えません)。

で、川上先生、「鳥界四天王」の、ダチョウ以外はなんですか。個人的に選んでいいんですか。若冲の描いた「群鶏図」なんて、イケメン(イケトリか)ばかりで、メンドリ達が誰推しかワイワイやってたら楽しいそうとか言っていいですか。「群鶏図」、骨格でもそうとうかっこよさそうと思いませんか。


図書館 司書 関口裕子