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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
もしも人食いワニに噛まれたら!

もしも人食いワニに噛まれたら!

福田雄介著(株式会社青春出版社 2021年)
2022/07/28更新 202205号
分類番号は487.96
著者のTwitterには「かわいい」「かっこいい」「美しい」ワニが満載である。しかしワニって、うちの大学ならどこの研究室が診るんだろう。水族医学の和田教授に聞いてみました
和田教授のコメントはこちら

 とうとう出ました、ワニ本。
 ニッチな生きものについてのニッチな本はいつでもウェルカム。いつそれを研究したい学生が現れるかわからない。昨年も、ゾウからアリまで(本当にゾウ本とアリ本が同年に出版されたのだ)漏らさずゲットした。
 さて、本書の著者紹介を拝見すると、オーストラリア国立大に籍を置きつつ、カカドゥ国立公園など、まさに現場でワニの調査・研究に明け暮れておられるようである。Twitterの自己紹介には「野生のワニのために働く公僕」という宣言があった。
 筆者のワニ体験は映画の『クロコダイル・ダンディー』と、熱川のバナナワニ園ぐらいである。熱川には小さいサイズのワニもいて(成体でも1mくらい)新鮮に感じたが、ただ、殆どのワニが「…」という感じで静止しており、衝撃であった。仲間を踏みつけたり(踏みつけられたり)口が開けっ放しだったり、おいおい、という姿勢のまま「…」である。剥製かな?と思って次の瞬間見ると、いつの間にか口が閉じていて二度びっくりだ。
 明るい園内でのどかに「…」となっているワニたちを堪能したものだが、本書の第1章はいきなり「「人食いワニ」は本当にいるのか?」で始まるのである。

 本書、タイトルがこれだし、目次も「襲われたらジグザグに走って逃げろ?!」(第1章)、「耳に水が入ったりしないの?」(第2章:ワニの体は特別製)、「必殺の大技、デスロール」(第3章:知られざるワニの生態)、「伝説のナイルワニ“ギュスターヴ”の正体」(第4章:巨大ワニの魅力)という感じで、きわめてフレンドリー、且つ、とっつきやすい。写真もイラストもあり、わかりやすさもとびきりである。
 が、読み始めるとすぐにわかる。しっかりデータでも監修された、誠実な一冊だ。
 しょっぱなが「人食いワニ」なのも、センセーショナルというのもあるが、ワニとのかかわりにおいては身近な設定だからであろう(ワニを飼う人はあまりいないし)。スペック上、地上をそうそう追いかけては来ないが、泳ぐと時速20キロ超にもなり、とうてい逃げきれるものでもない。獲物を飲み込むには口内の仕組みでいったん顔を出す必要がある難設計だが、噛む能力はカメの甲羅をバリバリ砕いてしまうほどである。説明が非常に具体的になる、使える設定なのだ。「人身事故」と表現されるところもツボだった。
 帰巣本能強し。新たな抗生薬として研究されるほど血液の免疫力が高い。水中活動のために心臓は特製だ。そして筆者が「遊んでいる」と思っている習性等々、なるほどワニはなかなか魅力的なのである。レジェンド的な巨大ワニの存在もいい。
 しかしどうして「ワニ」だったのだろう。

 筆者はこうした「生きもの本」を開くたび、著者が推しにハマったきっかけを読むのを無上のヨロコビとしている。本書では最後の最後に6ページだけ、思いが吐露されていた。16歳の時に観たテレビのドキュメンタリーがきっかけであったという。ワニが泳ぐ「美しい姿」を見て、雷に打たれたような衝撃を受けたそうだ。
 いったん絶滅が懸念されるほど、乱獲によって個体数を減らしてしまったワニ。近年徐々に数を増やしてきているが、そのためにワニをあらためて敵視する世論もある。
 そこで著者は訴える。
 本来、そこは、ワニの生息地であったのだ。
 人間は別の生き方もできるが「ワニはワニとしてしか生きられない」。ならば共存の道を模索していくしかないのではないか。

 「なぜこれほどワニに惹かれるかはわからない」と著者は告白する。が、なぜ研究するかはわかっている、野生のワニを守るためだ!と、そこは強く言い切っていて、筆者も納得する。こうした誰にもわかりやすい一般書を以て「ワニとしての生き方」について語り尽くしてくれたのだ。たった一人の「人食いワニ研究者」として。

 こうした生きもの本は貴重である。きっと再び、次の「雷に打たれてハマる子」が現れる。ネットに溢れる情報もいいが「きちんとした本がある」というのはまた格別の福音だ。プレゼントもされるだろうし、するだろう。
 こういった本によくある、このフレーズは、心からのものだ。
 「この本で、興味を持ったり、より知識が深まったという人が一人でもいれば幸いです」

 ちなみに何かにガツッと興味を持つのは、何歳でも遅くないからね。