毎年、春から初夏にかけて必ず何度も借りられていく一冊です。ボロボロになり、1冊買い足しました。2冊あっても人気です。
冒頭のきれいな水彩画のページは、よく見ると年表なのです。「絵の年表」です。最初の記述は2行だけ「暖かく浅い海に 小さな生きものが暮らしていた」。
それは5億年前の世界で、地上はまだ白っぽくぼんやりと描かれています。
「絵年表」は9ページもあるのですが、ときどき灰色の世界が挟まれます。生命が「絶滅」に近くなるほど死滅した時期だそうです。なんと複数回あります。
なるほど、こうしたことを語る本なのだとわかりました。
ひとくちに「生きもの」と言っても膨大なので、本書ではまず「植物の上陸」を語り、「昆虫の上陸」を語り、そして「脊椎動物の上陸」を語っています。読むうちに「進化を語るというのは、なかなか情報量多いことだな!」と思いました。それぞれの「生きもの」の体のしくみを解説しなければ、進化の過程はたどれません。また、その生きものが生きている環境も解説しないと「しくみの意味」が捉えにくいのです。
環境は進化を促しますが、生きものが進化し繁栄することによってまた環境も変化します。生きものはその変化にまた、対応していきます。
そして、環境変化の最たるものが「絶滅」です。
絶滅というと筆者はつい「恐竜の絶滅」を思い浮かべてしまうのですが、本書によれば「絶滅」に近いポイントは5回もあったそうです。最大は2億5千年前で、全生物の90%が死滅してしまったということです。恐竜の絶滅(6500万年前)はまだマシな方だったとか。最終章で「絶滅」について語って、本書は終わります。
実は冒頭の「絵の年表」は、大阪の高槻市にある「生命誌研究館」に展示されている「生きもの上陸大作戦絵巻」です。全長9メートルの大絵巻で、DNAや発生学、化石研究、果ては地球科学まで、多様な研究が反映されて完成しました。「あとがき」にその過程のてんやわんやが書かれており、まさに一大プロジェクトだったとわかります。
(あとがきから読むのもアリかもしれません)
絵巻をつくる際、何度も意見が分かれたそうです。なるべく大きな流れを大事にし、内容が信頼性を損なわないよう、熟慮の末に選択されていきました。また、細かすぎる部分は涙をのんで簡略化したそうです。
研究館のスタッフにはそれぞれ専門領域があり、さらに研究者のサポートもありました。そうしてできた絵なのですが、肝心なのは「それは誰も見たことのない世界」だということです。
むかしむかしの世界は、どんなに研究が進んでも「でも誰も見てきたわけではない」のです。あくまでそれは「現在の研究でわかっている(とされている)世界」であり、学説が覆されると、その後出版される本にはそれが反映され、読者は「えっ!ほんとうはこうだったのか!」と驚くことになるのです。
読者はその過程もまた読むことになります。
本書は150ページというポータブルな新書です。あっさりし過ぎているところもありますが、そう感じたら、そこを詳しい本を探してみましょう。本書の出版から、さらに研究は進んでいます。「進化」の本を集めた棚には読みやすい本が沢山あります。それだけ、進化について知りたい人は多く、大きなテーマなのです。
筆者は図書館にお勤めしてから恐竜の本を読み始めましたが、カラフルでモフモフになった恐竜に驚き、楽しんでいます。これからも思いつけば本を探し、楽しんでいくことでしょう。読んでも読んでも、研究はその先へと進みます。