2023年にエクスナレッジさんから『猫は毛色と模様で性格がわかる?』が出版されたとき、本書の存在を知り、遅ればせながら両方購入した。前書が毛色(柄)だけでなくねこの品種も含め解説した本であることに比べ、本書は実にシンプルである。
「ねこ一匹ずつの写真掲載」→「その柄の遺伝子構造について解説」
まず、ねこの主な毛柄の紹介と、その模様が決まる遺伝子のしくみについて解説してから、実際の写真を元に遺伝子構造を解読していく。巻末にちょっとだけ「ねこの歴史」やメンデルの法則の解説ページがあるが、100頁超のほぼほぼが、ねこの毛柄の読み解きだ。
これが断然、おもしろい。各ねこの写真は路上など屋外で撮影されたもので、ポーズも表情もとりどり。実にエモい。
でも、そんなにねこの模様ってある…?
これがあるのだ。白・黒・茶そしてキジ(いわゆるトラねこ)。茶トラは茶ねこに含まれる(縞模様になる遺伝子がある)が、白地に茶がある「茶ぶち」もいる(キジトラにも「キジぶち」がいる)。もちろん黒ぶち(牛柄ですね)もいる。
ぶちについては白い部分が広いねこと、色部分が広いねことでまたチガウ。
三毛ねこもいるだろうという方、そうです。三毛ねこは、黒い部分がある「黒三毛」と、黒い部分がキジトラ柄の「キジ三毛」がいる。
サビねこは? 本書では、サビねこは「白い部分がない三毛猫」つまり「黒ニ毛」と呼ばれる。同様に「キジ二毛」もいる。
これらに加え、色が薄くなる遺伝子も影響する(「薄キジぶち」など)。「パステル三毛」もこれに含まれるか。他に長毛・短毛の遺伝子もある。
それらが組み合わさり、さらにその遺伝子の優劣で、実際に体表に現れる柄が決まるのだ。すべての遺伝子が毛柄になるのではなく、ヒソカに伝えられる遺伝子もあり、だから親ねこと子ねこがまったく違う柄になったりするわけだ。
その仕組みはそれなりに専門的な解説になるのだが、チャートに沿って質問に答えていくと(例:体のどこかに白い毛がある→YesかNoか)、主な遺伝子組み合わせがわかる判定フローチャートなど、工夫されている。
フローチャート、筆者は過去の飼い猫ぜんぶやってみましたことよ。
写真では一見、キジトラに見えるねこも、よく見ると明るい茶色の部分があったりして、そうすると「キジ二毛」なのだ。その差は大きい。
思い出したのが、奈良の大和文華館にある伝・毛益筆の『蜀葵遊猫図』である。
どう見ても子ねこ達を遊ばせている母ねこの図なのだが、母ねこが「茶ぶち」で、子ねこが「黒ぶち」「黒三毛」そして「黒(もしくは薄い黒)」の3匹なのだ。父ねこが俄然、気になってくるじゃないか。
ねこ写真を題材にちょっとした夏休みの研究課題になりそうだし、グループワークにしても楽しいと思う。「あとがき」を読むと、やはり著者が高校の生物の先生をしておられた頃、地域のねこを調べて遺伝子を考察する課題を出したりされたそうだ。かなりマニアックなレポートになり、意欲的な質問も沢山投げかけられ、それが本書に結実したというから、盛り上がりっぷりがわかる。
テレビ番組の「保護ねこに子ねこが産まれました!」などという、子ねこと母ねこがわちゃわちゃいるシーンがより楽しくなりそうである。あらためて遺伝学に興味を持った人もいただろう。
本書、発行から3年の時点ですでに7刷である。わかる。ねこ友たちと楽しみたい!
このシンプルな楽しさはどうよ。本はやっぱりあなどれんのよ。
図書館 司書 関口裕子