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日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

***『子育てする動物たち』対談!***
前編「ワンオペからの価値観の転換」

 2021年9月17日更新の『正解は一つじゃない子育てする動物たち』は、動物本を数多くご紹介してきた「この一冊」でも初登場のテーマで、読んでいてとても新鮮でした。
 その後、当館の館長・柿沼美紀先生(比較発達心理学教室)と感想を話し合い、盛り上がったので、一部公開しようと思います!

正解は一つじゃない 子育てする動物たち

『正解は一つじゃない 子育てする動物たち』
長谷川眞理子 監修、齋藤慈子、平石界、久世濃子 編(東京大学出版会2019年)

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本書は研究者の方々が自身の研究と実体験を交えて語るというユニークな構成がポイントでした。
先生ご自身は研究者の子育てについてどう思われますか?
柿 沼
研究者の方が夫婦で子育てをする傾向があるかなと思います。お互いの力関係も同等です(つまり、男性がお金を稼ぎ、女性が夫を支えるではない)。
裁量労働制であることも大きいかもしれません。
また海外の学会などに参加すると、そういったカップルを見かけることも多いです。
より価値観の転換がスムーズに行きやすい環境が整っているのかもしれませんね。
図書館
なるほど。進路支援図書コーナーにある海外留学本を読むと、研究者の留学に際して「子育てをどうするか問題(例えば教育)」は重要な案件だなと感じていました。
海外だとベビーシッターを利用する方も多いですが、日本ではあまり普及していません。どうしてでしょうね?
柿 沼
ベビーシッターの助成は大学でもなかなか利用する人が少ないです。
動物は基本的に自分の子どもしか育てません。
他のDNAを持った子を育てるなんて、エネルギーの無駄ですから。
チンパンジーでも、基本的には自分の子どもしか育てません。
飼育下で子どものいないメスが里親になる例はありますが、それは例外で、本能的に他人には任せないのです。
ただ、社会の枠組みの中で「アロマザリング」という子育てはあります。

※参考文献:共有する子育て―沖縄多良間島のアロマザリングに学ぶ
      (編著:根ケ山光一/外山紀子/宮内洋株式会社金子書房)

欧米のベビーシッターは上流階級のナニーの伝統から来ていると思います。
生物学的にはやや特殊なシステムですね。
血縁でもなく、あまりよく知らない人に短時間契約で子育てをまかせるベビーシッターの利用は、むしろ例外的と考えた方がいいかもしれません。 血縁度が薄い子どもを守る必然は、本来あまりないわけですから。
今まで考えたことがなかったですが、やはり血縁度は大きな要因かもしれないですね。
米国においてベビーシッターは、黎明期には血縁者が少なかったことからもわりと抵抗が少なかったのかなと。
それでもなるべく近所の子どもを頼んでいますよね。
普段から様子が見える人たちにまず頼むわけです。
ヨーロッパでもおそらく都市部中心の習慣で、農村部では自分や親類が子どもを見ている印象があります。
血縁度がやや低くても、せめて生活が近い人に頼みたいというのは自然な感情だと思いますよ。
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香港には「アマさん」と呼ばれる家政婦さんが普及していて、ベビーシッターの役割もあるんですよ。
調べたら中国や東南アジアでは住み込みの家政婦さんの雇用が一般的で、近年では高学歴化もしているそうです。英語教育ができるとか。
また、共働きが基本のフランスも「ヌヌ」と呼ばれるベビーシッターがいて、自治体の登録制度もあるそうです。これはごく小規模の託児所みたいな感じです。
研究者の方も、留学・赴任先の海外ではベビーシッターを利用する方も多いようです。
女性が自立して経済的に他者の手を借りるリソースができることと、それが普通で必要だという社会的後押しも重要ということでしょうか。
父親が子育てのたいへんさを実感することも大きいですよね。

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