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ゆらぐ脳

池谷裕二 ( 文藝春秋 2008年)
2009/9/10更新 023号
珍しい本である。あとがきで、著者自らが言っている。
「こんな風変わりな本を出す意味はなんだろう」
が、『週刊文春』で各界の著名人の仕事論インタビューを連載し、今まで『イチロー262のメッセージ』などを手がけた木村俊介氏は、本書も見事に構成している。
これは「池谷さんは科学の仕事をどう捉えているか」を主題にした、超第一線を走る現役科学者の「仕事論」である。
本書には「研究」の現実がつまっている。論文が一流誌に載るまでのカラクリ、載ると助成金が貰えるという社会の仕組み、「否定の論文」が出たときの風当たり、学会の派閥。
それらをきちんと語った上で、言う。
「幻滅しても、ピュアな知的好奇心があれば大丈夫」
努力の人なのだと思う。「論文が書けなければサイエンティストではなく、ただのオタク」だと思っている彼は、コミュニケーション力の大切さを本書で何度も述べている。
ところがこのコミュニケーション、生来ニガテな人はどうすればいいのか。
努力して変われ、と言われるとツライ。そんなにカンタンに変われるものじゃない。
が、そんな言い訳も本書を読むと言いにくくなる。著者は、コロンビア大に留学してからも、プレゼンテーションのたびに30回(!)はリハーサルをしていた、と言うのだ。
研究の成果を、人に、よりよい形で「伝える」ために。

好きなことを仕事にするのは、これだけ大変だよ、ということがわかるだけでもすごい一冊である。が、なぜか読み終わると力が湧いてくるのは、著者の人柄ゆえか。