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未来を見すえる者が勝つ
―競馬調教師 藤澤和雄の仕事―

(プロフェッショナル仕事の流儀DVD  NHK  2007年)
2010/03/10更新 029号
「心配性であれ」という言葉は、重かった。
あまりストレスをためないように、といういまの風潮と、相反する言葉だからだ。
「勝利に近道はない」「調教は、ほとんど思い通りにはならない」「G1ホースと呼ばれるような馬は、調教師が放っておいても勝つ。できることはあまりない」…どの言葉も、重みに満ちている。目の前に坂道がどーんと迫ってくるような。

藤澤氏は、イギリスで調教について学んだ。負荷の高いキツい調教ではなく、毎日平均よりちょっと重い程度の調教を繰り返すことで、馬の能力を引き出す―「馬なり調教」と呼ばれるやり方だ。
帰国して、日本では違うと知った。本番レースさながらの走りをさせて馬の心肺能力を高める方式が主流だったのだ。「競馬をなめている」とまで、言われた。
氏の闘いは、そこから始まる。
ガラス細工にたとえられる競走馬の脚。“気弱で逃げ足のはやい馬が勝つ”とまで言われる繊細な競走馬の習性。氏はとことん、心配し、気配りし、馬に寄り添うようにして性格を見極める。手間がかかることおびただしい。そこまでしても「思い通りにはならない」。
大変な仕事だ。
が、その心配性の自分について、コメンテーターに問われると、氏は笑った。
「それで成功するか、しないかは別として、馬にはいいかな」

楽な仕事、簡単な仕事の対極にあるかもしれない。
が、彼のおかげで、幸せに競走馬生活を送ったサラブレッドたちが沢山いただろう。
ゼンノロブロイ、ダンスインザムードといった有名馬の名前をキラキラ並べたDVDかと思いきや、ものすごく手堅いつくりだった。