はたらく人びと

マグロ。
この魚に対する日本人の思い入れは、日本人にしかわからないのではないだろうか。
が、こんなに難しいサカナだとは知らなかった。
網にこすれただけで死ぬ？　光が当たっただけでパニックになる？　その上、なんと共食いもするとな。
成魚の大きさからしてもう、別格なのである。全長3メートル、それも高速で泳ぐ魚を「養殖」って、どうやったら可能になるのだろうか。
そういう単純な興味から観始めたＤＶＤだったが、それにしても「魚飼い」たちの奮闘ぶりにはおそれいった。
生き物を扱う仕事というのは、やはり並大抵の苦労ではきかない。産卵を待ち、稚魚をやっとこさ育てても「全滅」してしまえば、また、次の産卵まで待たねばならない。
朝起きて見てみたら「死んでいる」。それで始めからやり直し。結局、32年かかった。
32年ですよ！　昭和は平成になりましたよ。赤ちゃんが職場で主任くらいになっちゃいますよ。
次々と他の研究機関が撤退していったのもムリはない。近畿大学だけが孤独に闘い続けたわけだが、彼らを支え続けたものはなんだったのだろう。答えは観た人によって違うかもしれないが、私が答えるとしたら、それはもう「成功させなければならない」という強い強い、鋼のように固い意志である。
成功が見えなくても、進む。前が真っ暗でも、進む。もう、ちょっとこれはぜったいムリだよな、と思っても進む。勝算？　あー、あったっけね、そういう言葉、という状態でも、進む。
そういう意志だけが、不可能を可能にするのである。みんなが「ムリ」と思ったことを実現するのである。観ればわかる。実感する。
・・・でも、忘れてしまうんですよ、これって。