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科学の扉をノックする

小川洋子(集英社 2008年)
2010/12/27更新 050号
第一回本屋大賞を受賞し、映画化もされた『博士の愛した数式』の作家の登場である。お待たせしました。

国立天文台准教授 渡部潤一
鉱物科学研究所所長 堀秀道
筑波大学名誉教授(高血圧の原因となる酵素「レニン」の遺伝子を解読) 高輝度光科学研究センター(Spring8) 小宮聰
京大名誉教授(粘菌研究者) 竹内郁夫
東大総合研究博物館教授(『パンダの死体はよみがえる』著者) 遠藤秀紀
阪神タイガーストレーニングコーチ 続木敏之

この、7人の科学者の扉を、トントンとノックする音が聞こえてくるような一冊である。
この先生の脳みそには人間がどんな姿で映っているのだろう、どういういきさつでこの研究を始めたのだろう…新聞の科学記事を読むたび、そんな「妄想」を膨らませていたという著者。特別に科学に詳しいわけではない。が、そんな著者だからこそ、彼女一流の筆をふるって切り取った姿は鮮やかだ。
「国立天文台にて」「山の上ホテルにて」「竹内邸にて」と、必ずインタビューの場から描いていて、読者も一緒にその場に誘う。「地震で一番危ないのは高層ビルのガラスでしょう。だから雲母にしたらどうかと思うんです」そう語る堀所長の姿は幼稚園の園長先生のよう、と著者は目を見張るが、同感である。こういう肉声を聞くのは滅多にない機会に違いない。著者はそれを植物のようにすこやかに受け止め、ページの上に花開かせた。

科学は、研究者が静かな情熱を燃やし続け、発展させてきた。が、なかなかその炎は我々には見えない。ベストセラー作家が開けてくれた扉の向こうに行って見ない手はない。たとえアリスのように迷ったとしても、その価値はあるはずだ。