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【新着論文】抗寄生虫薬が、猫伝染性腹膜炎の猫を救う!?

論 文 名:
Ionophore antibiotics inhibit type II feline coronavirus proliferation in vitro
和訳)イオノフォア抗生剤は、2型ネココロナウイルスの増殖を抑制する
著  者:
田中良和1)、田辺愛理1)、野中柚希1)、植村光希1)、田島剛2)、落合和彦1)
1.日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科・獣医衛生学研究室
2.日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科・獣医薬理学研究室
掲載雑誌:
Viruses, August 8, 2022, vol; 14, 1734
MDPI社
doi.org/10.3390/v14081734
研究内容:
 ネココロナウイルス(FCoV)感染症は、飼い猫の約70%が感染しており、時に致死的なネコ伝染性腹膜炎(FIP)を起こすことが知られています。そしてFIP発症猫のほとんどは命を落とします。残念ながらワクチンはなく、治療法も確立されていないため、対処療法するしかありません。このため、以前より私たちは、FIPの治療薬候補を探してきましたが、この度、家畜の餌にも配合されている抗生剤が、非常に低い濃度でFCoVの増殖を阻害することを培養細胞感染実験で確認することができました。これらの抗生剤は、家畜のコクシジウム症に対する抗寄生虫薬として古くから用いられており、体内への残留もほとんどないことから家畜飼料に混ぜて与えることが法律で認められています。近年、ネコの肉腫にも治療効果を発揮することで注目されています。
 本研究で使用された抗生剤は、エンドソーム内のカルシウムイオン濃度を低下させ、さらに水素イオン濃度(pH)をアルカリ性に傾けることによりウイルスの外被蛋白質であるS蛋白質の開裂を阻害します。この結果、細胞内のエンドソームと呼ばれる細胞内小器官に取り込まれたウイルス遺伝子が細胞質へ放出されるのを防ぎ、ウイルス複製を阻害します。今後、臨床応用できるようにさらなる研究が期待されます。
 なお、この研究は「令和3年度の特色ある研究」およびJST科学研究費補助金(基盤研究(B))の支援により行われました。

■研究者情報

田中良和(獣医学部獣医学科 獣医衛生学研究室・教授)
田島剛(獣医学部獣医学科 獣医薬理学研究室・講師)
落合和彦(獣医学部獣医学科 獣医衛生学研究室・准教授)