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【新着論文】MEK阻害剤Trametinibは有効な治療法が確立されていない犬前立腺癌に対する分子標的治療薬として期待できる!

論 文 名:
Establishment of a BRAF V595E-mutant canine prostate cancer cell line and the antitumor effects of MEK inhibitors against canine prostate cancer
和訳)BRAF V595E変異犬前立腺癌細胞株の樹立と犬前立腺癌に対するMEK阻害剤の抗腫瘍効果
著  者:
小林正典1、小野沢萌1、渡部志歩1、長島智和2、田村恭一3、久保喜昭4
池田亜紀子1、落合和彦5、道下正貴2、盆子原誠3、小林正人1、堀達也1
河上栄一1,6
1.日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科・獣医臨床繁殖学研究室
2.日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科・獣医病理学研究室
3.日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科・獣医臨床病理学研究室
4.日本獣医生命科学大学付属動物医療センター
5.日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科・獣医衛生学研究室
6.日本小動物繁殖研究所(Bio ART)
掲載雑誌:
Veterinary and Comparative Oncology, 2023 Feb 6. (Online ahead of print)
Wiley-Blackwell.
doi: 10.1111/vco.12879.
研究内容:
  犬前立腺癌は雄犬の0.2-0.6%に発生する悪性腫瘍であり、早期に前立腺周囲組織への局所浸潤や遠隔転移を起こし、予後不良となります。現在のところ、犬前立腺癌に対する確立された治療法はなく、有効性の高い全身治療法が求められています。BRAFはRAFファミリーに属するセリン/スレオニンプロテインキナーゼであり、上流キナーゼのRASから下流キナーゼのMEKおよびERKへのリン酸化シグナル伝達において重要な役割を果たし、腫瘍細胞の増殖や生存に関与します。BRAF遺伝子の体細胞変異はヒトの悪性黒色腫や大腸癌などで頻繁に認められ、キナーゼの構造的活性化を誘導します。ヒトの腫瘍における最も一般的なBRAF変異は、BRAFの600番目のアミノ酸がバリン(V)からグルタミン酸(E)に置換されたBRAF V600E変異とされます。近年、犬において、ヒトのBRAF V600E変異に相当するBRAF遺伝子変異(BRAF V595E変異)の存在が明らかとなり、犬の前立腺癌や移行上皮癌において高頻度に認められることが報告されています。
  本研究では新たにBRAF V595E変異陽性犬前立腺癌細胞株を樹立し、犬前立腺癌細胞に対するMEK阻害剤の抗腫瘍効果について検討しました。犬前立腺癌細胞を用いたin vitro研究では、試験した全てのMEK阻害剤(trametinib、cobimetinib、およびmirdametinib)が犬前立腺癌の細胞増殖を強力に阻害することが示されましたが、とくにtrametinibは、他の MEK 阻害剤と比較して犬前立腺癌細胞に対して最高の有効性を示し、非癌細胞に対する細胞毒性は最小限でした。犬前立腺癌細胞を移植した免疫不全マウスを用いたin vivo 研究では、trametinibが形成された腫瘍組織中のERKリン酸化を抑制し、trametinibの用量に依存して腫瘍退縮を誘導することが示されました。これらの結果は、MEK阻害剤trametinibが BRAF V595E 変異を有する犬前立腺癌の新しい分子標的薬オプションになる可能性があることを示唆しています。今後、犬前立腺癌に対するtrametinibの有効性について、臨床例での検討を進めてまいります。
 ※本研究はJSPS科研費JP17K15383の助成を受けたものです。

■研究者情報

小林正典(獣医学部獣医学科 獣医臨床繁殖学研究室・准教授)
田村 恭一(獣医学部獣医学科 獣医臨床病理学研究室・講師)
久保 喜昭(付属動物医療センター・助教)
落合 和彦(獣医学部獣医学科 獣医衛生学研究室・准教授)
道下 正貴(獣医学部獣医学科 獣医病理学研究室・准教授)
盆子原 誠(獣医学部獣医学科 獣医臨床病理学研究室・教授)
小林 正人(獣医学部獣医学科 獣医臨床繁殖学研究室・助教)
堀 達也(獣医学部獣医学科 獣医臨床繁殖学研究室・教授)