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【新着論文】ここまで進んだ「人工ウイルス合成技術を使った牛・豚コロナ/トロウイルス研究」の最前線

論 文 名:
Progress of research on coronaviruses and toroviruses in large domestic animals using reverse genetics systems
(和訳)リバースジェネティクスを用いた大型家畜動物のコロナウイルスおよびトロウイルス研究の進展
著  者:
氏家誠1,2、鈴木亨3
1. 日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医学科 獣医感染症学研究室
2. 日本獣医生命科学大学 生命科学総合研究センター
3. 農研機構 動物衛生研究部門 札幌研究拠点
掲載雑誌:
Vet J. 2024 Apr 17;305:106122.
Elsevier
doi: 10.1016/j.tvjl.2024.106122.
研究内容:
 試験管内で合成したウイルス遺伝子を細胞に導入して、感染性ウイルスを人工合成する技術を「リバースジェネティクス(RG)」と呼びます。この技術を用いると、ウイルスがなぜ病気を引き起こすのか?ウイルスの増殖を止めるにはどのような薬を作れば良いのか?などを、ウイルスゲノムを直接操作して研究できるようになり、ワクチンや治療薬の開発を飛躍的に進展させることができます。このためRGは、現代のウイルス学において最も重視されている技術の一つです。しかし、RNAウイルスの中で最大のゲノムを持つコロナウイルス(CoV)とトロウイルス(ToV)のRGは確立するのが極めて困難であることが知られています。このため、RGを用いた動物CoV/ToV研究は遅れており、中でも豚や牛のような大型家畜を対象とした研究はほとんど行われてきませんでした。しかし、この10年の間に、RGを用いた豚CoVや牛ToVの研究が少しずつ報告されるようになってきました。さらに、新型コロナウイルスの大流行により、新しく簡単なCoV/ToVのRGが開発されており、この新しいRGを用いることで動物CoV/ToVの研究が加速されることが期待されています。本論文は、CoV/ToVの一般的な特徴、CoV/ToVに利用可能な新旧RGの紹介、RGを用いた豚CoVおよび牛ToV研究の最前線を紹介した総論になります。
(文責:氏家 誠)

 

コロナウイルス(CoV)とトロウイルス(ToV)で利用可能なリバースジェネティクス(RG)の概略。細胞外で合成したウイルスRNA遺伝子を細胞に導入する方法(b,c,d)と、細胞内でcDNAからウイルスRNA遺伝子を合成する方法(a,e,f)に大別される。(a-c)が従来の方法で、全長遺伝子を分割した各フラグメント(F1-F6)を組み立てるのに時間と手間と熟練した技術が必要であった。(d-f)は新型コロナウイルス流行後に開発されたRGで、各フラグメントの組み立てを短時間で一気に行う事が可能となった。新RGを用いることで、動物CoV/ToVの研究が加速されることが期待されている(図2より引用)。

■研究者情報

氏家誠(獣医学部獣医学科 獣医感染症学研究室・准教授)

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