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【新着論文】mTOR1/2阻害剤AZD8055は犬肺癌の新たな治療法として期待できる!

論 文 名:
Antitumor Effect of mTOR1/2 Dual Inhibitor AZD8055 in Canine Pulmonary Carcinoma
(和訳)犬肺癌に対するmTOR1/2阻害剤AZD8055の抗腫瘍効果解析
著  者:
長島智和1、落合和彦2、滝沢悠香3、小池遥太3、齋藤隆広3、村松明日見1、呰上大吾3
町田雪乃1、盆子原誠4、石渡俊行5、道下正貴1,6
1. 日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医学科 獣医病理学研究室
2. 日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医学科 獣医衛生学研究室
3. 東京農工大学 獣医臨床腫瘍学研究室
4. 日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医学科 獣医臨床病理学研究室
5. 東京都健康長寿医療センター 老年病理学研究チーム
6. 日本獣医生命科学大学 ワンヘルス・ワンウェルフェアセンター
掲載雑誌:
1) Cancers, 2025 June 14:17(12), 1991. IF4.4
MDPI
doi: 10.3390/cancers17121991
研究内容:
 犬の肺癌は比較的まれに発生する悪性腫瘍です。早期の外科手術は最も有効な治療法ですが、肺内転移や他臓器転移を伴う場合、手術は実施できません。手術適応外の個体には確立された治療法がないため、新たな治療戦略の確立が必要不可欠です。一方、ヒトの肺がんは罹患率および死亡率ともに最も高い腫瘍であり、外科手術や放射線治療に加えて、がんの発生や病態進行に直接寄与する遺伝子変異に基づいた個別化治療が進んでいます。個別化治療において重要な役割を果たす分子標的薬は、がん細胞の増殖に関わる分子を選択的に阻害することで抗腫瘍効果を発揮します。従来の抗がん剤は正常細胞にも作用することで有害事象(副作用)が多くみられますが、分子標的薬はがん細胞に選択的に作用することで、高い治療効果かつ低い有害事象が期待されています。
 PI3K/AKT/mTORシグナル伝達経路は、ヒトや動物の体を構成する細胞にとって重要な細胞内シグナル経路です。同経路の活性化は正常な細胞の増殖や生存、栄養素の取り込み、代謝活性など多岐に渡る役割を果たしており、ヒトの乳がん、肺がん、結腸がんなど多くのがんでも異常に活性化していることが知られています。mTOR阻害剤はヒトのがん治療における重要な分子標的治療薬であり、mTOR1を標的とする第一世代mTOR阻害剤、mTOR1およびmTOR2を標的とする第二世代mTOR阻害剤など、様々な阻害剤が開発されています。獣医療においてもmTORを標的とした治療法は注目を集めていますが、現時点では臨床応用には至っていません。
 本研究では、犬の肺癌に対するmTOR阻害剤の有効性を検討するため、担肺癌犬から採取し、樹立した株化細胞を用いて、細胞レベルおよび生体内レベルで実験を行いました。これらの結果から、犬肺癌株化細胞ではPI3K/AKT/mTOR経路が活性化しており、第2世代mTOR阻害剤AZD8055は、第1世代mTOR阻害剤temsirolimsやeverolimsと比較して犬肺癌株化細胞に高い抗腫瘍効果を示し、犬の肺癌に対する新規治療薬となる可能性を見出しました。本研究成果は犬の肺癌に対する個別化医療の基盤となり、獣医療への応用が期待されます
(文責:道下正貴)

■研究者情報

落合和彦(獣医学部獣医学科 獣医衛生学研究室・准教授)
町田雪乃(獣医学科 獣医病理学研究室・講師)
盆子原 誠(獣医学科 獣医臨床病理学研究室・教授)
道下正貴(獣医学科 獣医病理学研究室・准教授)

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