【新着論文】クジラの骨はどのようにして太くなるのか?
- 論 文 名:
- Developmental process and homeostasis of whale long bones lacking medullary cavity using the radius of Antarctic minke whales, Balaenoptera bonaerensis
(和訳)骨髄腔を持たないクジラの長管骨の発生過程および恒常性維持―クロミンククジラ(Balaenoptera bonaerensis)の橈骨を用いた解析 - 著 者:
- 伊豆 弥生1、石川 創2、添田 聡3
- 1. 日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医学科 比較細胞生物学研究室
- 2.日本ドルフィンセンター
- 3.日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医学科 獣医解剖学研究室
- 掲載雑誌:
- Journal of Veterinary Medical Science, 2025 Feb 87:336-348.
Japanese Society of Veterinary Science
doi: 10.1292/jvms.24-0430. - 研究内容:
- 骨形成は、体の大きさや骨にかかる力学的負荷に影響を受けます。それでは、地球上で最も大きく、生涯を水中で過ごすクジラの骨は、どのような特徴を持つのでしょうか?私たちヒトを含む陸生哺乳類の上下肢(前後肢)を構成する骨は、中心部に骨髄腔を持つ中空構造になっています。一方、クジラを含む鯨類の前肢に当たる胸ビレの骨は骨髄腔を持たず、中心部まで骨で満たされた構造を持つことが知られています。しかしながら、このような骨がどのようにして形成されるかは不明でした。そこで私たちは、クジラの骨の形成過程について、クロミンククジラを用いて解析しました。骨は縦方向への伸長と横方向への直径の増大によって成長しますが、本研究では特に横方向の成長過程に着目して解析を行いました。
その結果、クジラは胎生期において大型動物であるウシの骨形成と同様に、軟骨を取り囲むように同心円状に新生骨を形成すること、さらに新生骨と新生骨の間は広く疎に構築されることがわかりました。一方、未成熟期の新生骨は、比較的小型なネコと同様に、外側に向かって放射状に伸びるように形成され、骨形成パターンが変化することがわかりました。さらに、胎生期に形成された骨と骨の間を埋めるように骨が付加されることで、緻密な骨が形成されることが明らかになりました。成熟期には新生骨形成は消失し、頭尾軸に沿って骨リモデリングが生じて骨密度は低下しますが、陸生動物のような中空構造にはならないことが示されました。
クジラの胸ビレは水中でバランスを取る機能を持つと考えられており、重く、密な構造を形成する必要があると考えられます。本研究から、クジラは胎生期から成熟期にかけて新生骨の形成パターンが変化させるとともに、胎生期に作った骨組みに骨を付加することで、緻密で中空構造を持たない骨を形成することがわかりました。また、発生段階から胸ヒレに体重負荷がかからないクジラでは、体重が支える機能が消失したことによる骨量低下は起こらないことが示唆されました。 -
(文責 伊豆弥生)

