令和4年度 学位記授与式(獣医学部)学長式辞

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令和4年度 学位記授与式(獣医学部) 学長式辞

 本日ここに学位記授与式を挙行できますことは、本学にとって大きな喜びです。獣医学部卒業生198名の皆さん、誠におめでとうございます。4年間ないし6年間の皆さんの持続的な学びへの意欲と取組みに、心から敬意を表します。
 さらに、学校法人日本医科大学理事長 坂本篤裕先生をはじめ、ご来賓の皆様にご臨席賜り、誠に有り難うございます。また、父母の皆様におかれましては、これまで本学の活動に多大なご理解とご支援を頂き、誠に有り難うございました。
このうららかな春の日に、この様に多くの方の祝福のもと、未来へ旅立つ皆さんに、教職員を代表し、改めて心よりお祝いを申し上げます。

 さて、卒業生の皆さんは、4年ないし6年前に、それぞれの思いを持って本学に入学されました。今、その時のことを振り返って、その思いは達成されたでしょうか。まだ道半ばでしょうか。あるいは大きく変貌を遂げたのでしょうか。

 私は昨年10月から現職につきました。2017年に入学された獣医学科の皆さんについては、1・2年生の担任を務めさせていただきました。東日本大震災の記憶がまだ残る、2018年の夏の北海道実習の引率のさなかに、明け方の札幌のホテルで北海道胆振東部地震に遭遇しました。実習は途中で取りやめになり、停電の中、物資の確保も危ぶまれ、フェリーと新幹線で数日かけて学生さんと東京にたどり着いた時のことを思い出します。
 獣医保健看護学科の皆さんは、2019年に入学すると、その年末に中国武漢で新型コロナウイルス感染症が発生し、それは瞬く間に世界に拡散しました。私は2020年度から教務部長を拝命していたため、流れてくるニュースと文部科学省からの通達を前に途方に暮れ、どの様に皆さんの学業を維持したら良いのだろうかと悩みました。講義をオンデマンドで行い、実習を一日かけて少人数で分散して行うこととしましたが、多忙な教員にとって、終日の実習の合間に慣れていない講義動画を作成するのはとても大変なことだったと思います。当初は対応が遅れ、不満をつのらせた学生さんも多かったと思います。しかし、皆さんのアンケートの生の声を先生方にお伝えすると、学修支援システムへの動画登録数は一気に増え、本学の教育レベルを維持することができました。しかし、その後も新型コロナウイルス感染症は容易には収束せず、獣医保健看護学科の皆さんは学生生活の多くの期間をコロナ禍のもとで過ごされました。
 一方、獣医学科の皆さんは3年生から研究室に所属し、4年生から本格的に研究活動に取り組もうとした矢先に登校禁止となり、研究室活動は長期間取りやめになりました。それでも、両学科の皆さんは専門科目を全て修得され、卒業論文も提出されました。このことは、皆さんの環境の変化に対する適応力の高さと、危機的な状況においても努力と工夫を継続できる忍耐力の結果であろうと感心致します。

 一方、大学施設の使用制限、学外実習やクラブ活動の停止、学内行事の中止は、学生が直接語り合い、友人を作り、学生生活を謳歌するという、これまで大学で当たり前に行われてきた青春のひとときを奪い去りました。おそらくこの中にも、仲間と会えず、家族とも離れて、一人苦しい時間を過ごすという経験をした人がいると思います。昨年末に3年ぶりに体育祭や学園祭が行われました。コロナ禍の終焉がやっと見えてきましたが、ロシアのウクライナ侵攻に伴う戦争が昨年2月に勃発し、それはいまでも続いています。

 この様に、日本においても、世界規模で起こる災害、戦争、感染症などによって、自身の努力や思いでは如何ともし難い、多大な損害や生命の危機に曝される可能性が高まってきているように思われます。それでも将来に向かう皆さんは、その歩みを止めるわけにはいきません。10年先、20年先、30年先を目指して、この不安な世界において努力を続けなければなりません。人類は今後も様々な危機に直面するでしょう。その度に英知を結集し、危機を乗り越えていく必要があります。皆さんは是非、獣医学、獣医保健看護学を修めた科学者として正しい情報を入手し、客観的に判断することで、それぞれの役割を果たしていって下さい。しかし、自身で解決できないような悩みや不安に押し潰されそうになった時には、是非、母校、特に皆さんを指導した先生に相談して下さい。きっと真摯に向き合ってくれると思います。また、コロナ禍の経験は、人と触れあうこと、直接話すことがいかに重要であるかということを教えてくれました。不安になった時の自身の経験を思いだし、皆さんも苦しんでいる人を助ける人になって下さい。

 さて、我々が生きているこの世界は、これまでに経験のない速度で変容を遂げています。コロナ禍によってデジタル化はさらに加速し、新しいコミュニケーションツールが開発され、新しい価値観やビジネスが生み出されています。大学で学んだことは、自身の基盤を作る上で大事だったとしても、古い情報はいずれ更新される運命です。そのため、今にとどまることなく、自己研鑽を続けて下さい。人生100年時代と言われます。長く生きていれば、予想もつかなかった色々なことが起こります。歓喜も挫折もあるでしょう。その時に大事なのは、小さなことでも今、目の前にあることに集中し、それを乗り越える努力をすることだと思います。そのことが次のステップへの準備になります。その様に学び続けることで、複数の目標を成し遂げることができるかも知れません。本学も皆さんに対する門戸を開いています。学生時代に学んだ専門分野をベースに、さらに新しい知識や技術を加えることで、新たな分野を開拓できるかも知れません。

 本学は、明治14年に9人の若い陸軍獣医官が協力して文京区音羽の護国寺境内で開学した、日本最古の私立獣医学校を起源としており、2031年には150周年を迎えます。獣医学科卒業生の皆さんは、この伝統ある学科を卒業されることを是非誇りに思ってください。さらに、本学の獣医保健看護学科は日本で最初に大学に設立した獣医療技術者養成のための学科であり、今般、愛玩動物看護師が国家資格化されました。同学科で正規のカリキュラムを修了し、愛玩動物看護師第1号となられる皆さんは、是非そのことを誇りに思って下さい。

 最後に、本学の学是と到達目標を皆さんにもう一度紹介致します。1939年に作られた本学の学歌の4抄には「敬譲相和ゆるみなく、愛と科学の聖業にいそしむ日々ぞさかえあれ」とあり、この部分は原文のまま、今も歌い継がれています。第二次世界大戦に向かうさなかに、どの様な思いでこの一節をそっと最後の抄に歌い込んだのか。創立者の9人の若人と本学の歴史に思いを馳せたに違いありません。そして本学は、学是を「敬譲相和」、到達目標を「愛と科学の聖業を培う」と定めています。
 「敬譲相和」とは、謙譲と協調、慈愛と人倫を育む科学者の創生を説いた箴言とされています。地域社会において皆が平和に暮らすためには、多様性を認め合う共生社会を作ることが必要です。さらに、この有限な地球でこれからも人類が生き続けるためには、競い争う競争社会から、共に創るという意味の共創社会への転換が必須です。敬譲相和の理念はそのための鍵となると思います。
 「愛と科学の聖業を培う」とは、動物を育て護ることで人類に貢献することであり、これは人と動物の健康と環境の健全性は1つであるというワンヘルスの概念にも通じるものです。ワンヘルスに貢献することは、本日来賓で来られている学校法人日本医科大学、東京都獣医師会、そして本学の目標です。人獣共通感染症の発生や世界的な食料不足が危惧される中、皆さんの役割は今後ますます大きくなってゆくでしょう。

 これからの人生、様々な人と関わり合いながら困難を乗り越えていって下さい。そして、今日のようなうららかな春の日にそっと過去を振り返った時、これで良かったなと思える人生をおくられることを、教職員一同、切に願っています。

 本日は誠におめでとうございます。

令和5年3月9日
日本獣医生命科学大学
学長 鈴木浩悦