令和4年度 学位記授与式(大学院・応用生命科学部) 学長式辞

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令和4年度 学位記授与式(大学院・応用生命科学部) 学長式辞

 本日、ここに学位記授与式を挙行できますことは、本学にとって大きな喜びです。大学院課程修了生21名、博士論文審査合格者1名、応用生命科学部卒業生180名の皆さん、誠におめでとうございます。皆さんの持続的な学びへの意欲と取組みに心から敬意を表します。
 さらに、学校法人日本医科大学理事長 坂本篤裕先生をはじめ、ご来賓の皆様にご臨席賜り、誠に有り難うございます。また、父母の皆様におかれましては、これまで本学の活動に多大なご理解とご支援を頂き、誠に有り難うございました。
 このうららかな春の日に、この様に多くの方の祝福のもと、未来へ旅立つ皆さんに、教職員を代表し、改めて心よりお祝いを申し上げます。

 さて、皆さんはそれぞれどんな思いを持って本学に入学されたのでしょうか。今、その時のことを振り返って、その思いは達成されたでしょうか。まだ道半ばでしょうか。あるいは、大きく変貌を遂げたのでしょうか。

 応用生命科学部卒業生の皆さんは2019年に入学すると、その年末に中国武漢で新型コロナウイルス感染症が発生し、それは瞬く間に世界に拡散しました。私は昨年10月から現職に就きましたが、その前の2020年度から2年間、教務部長を拝命していました。流れてくるニュースと文部科学省からの通達を前に途方に暮れ、どの様に皆さんの学業を維持したら良いのだろうかと悩みました。講義をオンデマンドで行い、実習を一日かけて少人数で分散して行うこととしましたが、多忙な教員にとって、終日の実習の合間に慣れていない講義動画を作成するのはとても大変なことだったと思います。当初は対応が遅れ、不満をつのらせた学生さんも多かったと思います。しかし、皆さんのアンケートの生の声を先生方にお伝えすると、学修支援システムへの動画登録数は一気に増え、本学の教育レベルを維持することができました。しかし、新型コロナウイルス感染症は容易には収束せず、皆さんは学生生活の長い期間をコロナ禍のもとで過ごされました。それでも、学部生の皆さんは学位に関わる専門科目を全て修得され、大学院生の皆さんは自身の研究を遂行し論文を提出し、それぞれの学位を取得されました。このことは、皆さんの環境の変化に対する適応力の高さと、危機的な状況においても努力と工夫を継続できる忍耐力の結果であろうと感心致します。

 一方、大学施設の使用制限、学外実習やクラブ活動の停止、学内行事の中止は、学生が直接語り合い、友人を作り、学生生活を謳歌するという、これまで大学で当たり前に行われてきた青春のひとときを奪い去りました。おそらくこの中にも、仲間と会えず、家族とも離れて、一人苦しい時間を過ごすという経験をした人がいると思います。昨年末に、3年ぶりに体育祭や学園祭が行われました。コロナ禍の終焉がやっと見えてきましたが、ロシアのウクライナ侵攻に伴う戦争が昨年2月に勃発し、それはいまでも続いており、未来に暗い影を落としています。

 2001年には同時多発テロ、2011年には東日本大震災、そして、ほぼ10年後に今回のコロナパンデミック。日本においても、世界規模で起こる災害、戦争、感染症などによって、自身の努力や思いでは如何ともし難い、多大な損害や生命の危機に曝される可能性が高まってきているように思われます。それでも、将来に向かう皆さんは、その歩みを止めるわけにはいきません。10年先、20年先、30年先を目指して、この不安な世界において努力を続けなければなりません。人類は、今後も様々な危機に直面するでしょう。その度に英知を結集し、危機を乗り越えていく必要があります。皆さんは是非、獣医学、獣医保健看護学、動物科学、食品科学を修めた科学者として、正しい情報を入手し、客観的に判断することで、それぞれの役割を果たしていって下さい。しかし、自身で解決できないような悩みや不安に押し潰されそうになった時には、是非、母校、特に皆さんを指導した先生に相談して下さい。きっと真摯に向き合ってくれると思います。また、コロナ禍の経験は、人と触れあうこと、直接話すことがいかに重要であるかということを教えてくれました。不安になった時の自身の経験を思いだし、皆さんも苦しんでいる人を助ける人になって下さい。

 さて、我々が生きているこの世界は、これまでに経験のない速度で変容を遂げています。コロナ禍によってデジタル化はさらに加速し、新しいコミュニケーションツールが開発され、新しい価値観やビジネスが生み出されています。大学で学んだことは、自身の基盤を作る上で大事だったとしても、古い情報はいずれ更新される運命です。そのため、今にとどまることなく、自己研鑽を続けて下さい。人生100年時代と言われます。長く生きていれば、予想もつかなかった色々なことが起こります。歓喜も挫折もあるでしょう。その時に大事なのは、小さなことでも今、目の前にあることに集中し、それを乗り越える努力をすることだと思います。そのことが、次のステップへの準備になります。その様に学び続けることで、複数の目標を成し遂げることができるかも知れません。本学も、皆さんに対する門戸を開いています。学生時代に学んだ専門分野をベースに、さらに新しい知識や技術を加えることで、新たな分野を開拓できるかも知れません。

 本学は、明治14年に9名の若い陸軍獣医官が協力して文京区音羽の護国寺境内で開学した、日本最古の私立獣医学校を起源としています。2031年には150周年を迎える伝統ある本学において、獣医学、獣医保健看護学、動物科学、食品科学の博士、修士、学士を取得されたことを、是非誇りに思って下さい。

 最後に、本学の学是と到達目標を皆さんにもう一度紹介致します。1939年に作られた本学の学歌の4抄には「敬譲相和ゆるみなく、愛と科学の聖業にいそしむ日々ぞさかえあれ」とあり、この部分は原文のまま、今も歌い継がれています。第二次世界大戦に向かうさなかに、どのような思いでこの一節をそっと最後の抄に歌い込んだのか。創立者の9人の若人と、本学の歴史に思いを馳せたに違いありません。そして本学は、学是を「敬譲相和」、到達目標を「愛と科学の聖業を培う」と定めています。
 「敬譲相和」とは、謙譲と協調、慈愛と人倫を育む科学者の創生を説いた箴言とされています。地域社会において、皆が平和に暮らすためには、多様性を認め合う共生社会を作ることが必要です。さらに、この有限な地球で、これからも人類が生き続けるためには、競い争う競争社会から、共に創るという意味の共創社会への転換が必須です。敬譲相和の理念はそのための鍵となると思います。
 「愛と科学の聖業を培う」とは、動物を育て護ることで人類に貢献することであり、これは人と動物の健康と、環境の健全性は1つであるというワンヘルスの概念にも通じるものです。ワンヘルスに貢献することは、本日来賓で来られている、学校法人日本医科大学と本学の目標です。人獣共通感染症の発生や世界的な食料不足が危惧される中、皆さんの役割は今後ますます大きくなってゆくでしょう。

 これからの人生、様々な人と関わり合いながら、困難を乗り越えていって下さい。そして、今日のようなうららかな春の日にそっと過去を振り返った時、これで良かったなと思える人生を送られることを、教職員一同、切に願っています。 

 本日は誠におめでとうございます。

令和5年3月9日
日本獣医生命科学大学
学長 鈴木浩悦