令和6年度 入学式 学長式辞

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

令和6年度 入学式 学長式辞

 本日ここに新入生の皆さんをお迎えし、令和6年度の入学式を挙行できますことは、本学にとって大きな慶びです。大学院獣医生命科学研究科、獣医学部および応用生命科学部の新入生の皆さん、入学おめでとうございます。教職員一同、心より皆さんを歓迎致します。保護者・ご家族の皆様におかれましては、コロナ禍という不安定な時期を乗り越えて、ご子息・ご息女をここまで支えられてきたことに、敬意を表しますとともに、本日この日を迎えられたことに対し、心よりお慶びを申し上げます。また、お忙しい中、学校法人日本医科大学理事長、坂本篤裕先生をはじめ、ご来賓の皆様にご臨席賜り、誠に有り難うございます。

 日本獣医生命科学大学は、明治14年に獣医養成学校として開学した日本最古の私立獣医学校を起源としています。明治初期、富国強兵と殖産興業政策の一環として、軍馬の育成と畜産業の近代化のため、欧米から獣医学が導入されました。その様な時代の要請の中で、我が私立獣医学校はフランス獣医学を修めた30歳に満たない9人の陸軍獣医官によって文京区音羽の護国寺で開学したと言われています。その後、閉校、再開、移転を経て、昭和24年に獣医畜産学部に獣医学科と畜産学科を有する日本獣医畜産大学として開校しました。昭和27年に学校法人日本医科大学と合併し、昭和42年に現在の食品科学科の前進の畜産食品工学科、平成17年には日本初の4年制学科として獣医保健看護学科を設置しました。平成18年に日本獣医生命科学大学と校名を変更し、獣医学部に獣医学科と獣医保健看護学科、応用生命科学部に動物科学科と食品科学科を有する2学部4学科の複合型大学となり、現在に至っております。本学はこの長い歴史において、獣医、畜産、環境、食品などの様々な分野に2万人もの卒業生を輩出しています。皆さんは、この伝統ある本学で学ばれることを誇りに、大学院の2年間ないし4年間、学部の4年間ないし6年間を有意義に過ごして下さい。

 さて、コロナ禍の影響により、この数年の間に情報化社会はさらに加速し、世界は大きく変貌を遂げようとしています。私たちは様々な情報にアクセスし、世界中の人々と即座に情報のやり取りをすることができますし、バーチャルリアリティなどの技術により様々な疑似体験もできるようになっています。しかし、深い人間関係を作る上では、直接会って話すことが有効であり、自然、動物、文化などを理解したり、経験を必要とする技術を学ぶ際には、本物で実体験することが大事です。本学は学生と教員との距離間が近く、アットホームな雰囲気を校風としています。直接対話できる対面授業を中心に置き、ライブ感を伝える現場からのオンライン授業や、予習復習のためのオンデマンド授業を有効に活用し、効率良く深く学べる環境を整えています。また、シミュレーターを用いた実習前教育を有効に活用しながら、少人数制で現場に直結する技術教育に力を入れています。皆さんは是非、それらの機会を積極的に利用し、実践的な学びを深めて下さい。一方、実習や研究活動においては、条件や個体差などの様々な要因によって、結果は一様ではなく、必ずしも教科書通りにはいかないことを実感することでしょう。できるだけ条件を揃えても、既知の報告通りに行かない、あるいは答えが見つからないと言った事象に遭遇することもあるかも知れません。その時には、先入観にとらわれずに事実と向き合い、情報を吟味し、とことん議論し、見解を導き出すと言うプロセスを踏むことで、未知の問題に対峙した時の対応力を身につけて下さい。

 人生100年時代と言われます。長い人生を生き抜くためには、しっかりした土台を作る必要があります。さらに、専門課程を修了しても、それを活用するための人間力がなければ、社会において自分自身を生かすことができません。皆さんは是非、教養科目を含め、広い視野で様々なことを学んで下さい。また、研究室、図書館、富士アニマルファーム、動物医療センター、アリーナなど、コロナ禍で活用が制限されていた様々な大学施設が、現在では開放されています。それらを大いに活用し、研究活動、クラブ活動、学園祭、体育祭などに積極的に参加することで、様々な人とコミュニケーションする力を身につけるのと同時に、共に悩み、喜びや感動を分かち合うことのできる生涯の友人を作って下さい。さらに、何事も成功するためにはそれなりの準備が必要ですが、完璧な準備ができるまで待っていたら、好機を逃してしまいます。色々なことに挑戦できるのは、学生である皆さんの特権です。自身の興味に向かって臆せずトライしてみて下さい。

 最後に皆さんに、特に心にとめておいて欲しいことがあります。配布されている式次第に掲載されている本学の学歌を見て下さい。その4抄には「人の世恵む鳥獣を愛しみ護るも国のため、敬譲相和ゆるみなく、愛と科学の聖業にいそしむ日々ぞ栄あれ」とあります。この学歌は戦前の昭和14年に作られ、この第4抄は戦後もそのまま改訂されずに現在まで歌い継がれています。第二次世界大戦に向かうさなかに、どの様な思いで、この一節をそっと最後の抄に歌い込んだのか。本学の開学当時の歴史に思いを馳せたに違いありません。本学は学是を「敬譲相和」、到達目標を「愛と科学の聖業を培う」、教育理念を「愛と科学の心を有する質の高い獣医師、専門職、研究者の育成」と定めています。

 「敬譲相和」とは、謙譲と協調、慈愛と人倫を育む科学者の創生を説いた箴言とされています。本学は1人の創始者によるものではなく、高い理想を掲げた9人の若者が共同して設立した大学です。まずは自己を持つことが大事ですが、他者を理解し、人を思いやり、協調する精神を大事にして下さい。長いコロナ禍によって、社会でも大学でも、人間関係、組織、世代間など様々なところで、関係の希薄化や分断が生じ、その影響は未だに続いています。皆さんには、敬譲相和を胸に、大学内だけでなく、地域社会において、新しい関係を構築する役割を担っていって欲しいと思います。

 到達目標の「愛と科学の聖業を培う」とは、人と動物の幸福を追求すること、そのために人材を育成し、社会に貢献することです。人と動物の健康や環境は1つであり連動しているというワンヘルスの概念は、人と動物の福祉も1つであるというワンウェルフェアの概念へと進化し、人類と動物が共に幸福に暮らすことのできる共生社会の実現が求められています。本学の教育はワンヘルス・ワンウェルフェアの概念を柱として、獣医学部であれば主に動物の疾病制御を通じて、応用生命科学部では命の尊厳を護りながら動物を活用することで、人類に貢献する人材の育成を目指しています。皆さんには、「敬譲相和」のもとに「愛と科学の心」、すなわち、動物愛、人間愛に溢れた科学者として、獣医師、専門職、研究者などの様々な立場から、社会を支える人となって本学を卒業していただきたいと思います。

 生きているかぎり、誰にでもチャンスは訪れるはずです。その時の準備としては、日々を有意義に生きることです。そして必ず、誰しも人生において輝ける時があります。これから大学院の2年ないし4年後、あるいは学部の4年ないし6年後に、自身の体験を多くの仲間と分かち合いながら、はつらつとした気持ちで、1人1人が輝ける卒業式を迎えることができますことを、心より願い、期待しております。

 本日は誠におめでとうございます。

令和6年4月6日
日本獣医生命科学大学
学長 鈴木浩悦