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食のいま

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第68号: コロナ禍の食品市場について思うこと

 2020年の当初から続く新型コロナウイルス感染症の流行は、2021年になっても収束の兆しは見えず、1月7日には2回目の緊急事態宣言が発出されるに至っています。そして、同感染症の拡大に伴って、新聞やテレビ、雑誌等のメディアを通じて飲食店、なかでも居酒屋などアルコール類の提供を主体とする店舗の経営不振が喧伝され、厳しい状況に陥っていることが伝えられています。このような情報は事実として正しく、飲食店の経営者や従業員の心中は察するに余りあるところです。しかし、その一方では、これらの報道が「食」に関わりのある市場全体が不振に陥っているような印象も与えているのではないかという懸念を覚えます。

 コロナ禍が飲食店に与えたダメージは大きいのですが、これは食品市場全体の傾向ではないだけでなく、実際には業績を伸ばした分野も存在しています。例えば、昨年4月の第1回緊急事態宣言の発出後はスーパーの店頭から保存性の高い加工食品が払底するとともに、消費者が自宅で調理をするようになった関係から生鮮食品の販売も堅調でした。そして家庭向けの加工食品や生鮮品は、現在まで高い需要が継続しています。また、外食産業に関しても新たにテイクアウトを始める店舗も多く、それと関連して従来は知名度が低かったUber EATS等のフードデリバリーサービスの急成長もみられました。

▲学生が開発した「発酵バター入りニチジュウコンビーフ」を販売しているころくや武蔵境店でも、感染対策を行いながら営業しています。

 ここで視点を変えて食品市場の概要について確認すると、2015年における飲食料の最終消費額は83.3兆円1)であり、このうち生鮮品等として消費されるものは14.1兆円(16.9%)、加工食品は42.3兆円(50.5%)、外食2)については27.4兆円(32.6%)となっています。外食のうちアルコール類の提供を主体とする業態3)に限るならば13~14%程度と推計4)されることから、その市場は4兆円を下回る規模と考えられ、あくまで食品市場全体の一部に過ぎません。

 そもそも食品は人間の生命を維持し、日々健康に活動していくために欠くことができないものであるため、食品市場は社会に必ず存在しなければならないものです。そして、食品市場の規模は食品の消費形態や1食あたりの単価等に影響は受けるものの、基本的にそこに存在する人口によって規定されます。言い換えれば、当該地域や国に相当数の人口が存在するのであれば、その消費需要をまかなうに足るだけの食品市場が存在しなければなりません。また、このような市場の担い手である食品流通業や食品製造業、外食産業等の従事者は、膨大な消費需要に食品を提供するため不可欠な使命を担うエッセンシャルワーカーであることに疑いはないでしょう。以上を踏まえるならば、食品科学科の卒業生には将来的にも多様な活躍の場があると考えられます。

 新型コロナウイルイス感染症の流行は私たちの生活に大きな影響を与えましたが、今回のコロナ禍が「食」の大切さを認識し、食品市場の将来について考える契機になればと思う次第です。


1)食品市場の取扱額は『令和元年度食料・農業・農村白書』農林水産省、p.122による。
2)この場合の外食は、旅館・ホテル、病院、学校給食等を含まない。
3)具体的には居酒屋、ビアホール、バー、キャバレー、ナイトクラブ等が含まれる。
4)一般社団法人日本フードサービス協会(http://www.jfnet.or.jp/data/data_c.html)のデータにより試算したところ、外食産業全体の売上額に占めるアルコール類の提供を主とする店舗の割合は2015年で14.1%、2019年で12.7%であった。