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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
だから昆虫は面白い くらべて際立つ多様性

だから昆虫は面白い くらべて際立つ多様性


丸山宗利(東京書籍 2016年)
2018/10/17更新201807号
分類番号は486。魚の名前」でも味わいつくしたけど、昆虫の名前もまた秀逸! トゲトゲな装備(?)の「ブソウトゲアリ」、かわいい帽子被ったみたいな「ミドリズキンツノゼミ」。そして「ヘンテコヒゲブトオサムシ」って、ホントどうなんだ。

昆虫は「知られているものだけで」100万種を超えるそうである。実際には500万種、いや1000万種もいるらしい(もはや数が大きすぎて実感わかない)。
それにもちろん、われわれ人間がそうであるように、同じ種でも個体差がある。著者曰く「多様性とは、なんとも底知れないものなのである」。
いい言葉だ。多様性。みんな違って、当たり前。

本書、いろいろな楽しみ方があると思う。
写真のうつくしさ、ビビッドさだけでもオススメできる。並べ方もニクい。動画と違って、切り取って並べられる静止画の良さを、これでもか!!と発揮している。
第1章が「こわい・すごい・珍奇な虫」なので、そういった虫のほうが著者のお好みなのかもだけれど、次章の「アリ・シロアリ・それらの共生者」、つづく「きれいな虫・おしゃれな虫」まで、そのテンションはまったく落ちない。昆虫の各種ページには、グリーンの細マーカーでスイッと書き足したような「お気に入りマーク」がある虫がいるが、オススメ理由はさまざまで、珍しい種だからススメているものもあれば、秀逸写真だからススメたもの、エピソードがあるもの、などなど、読んでいると興味深い。

・・・などと筆者、落ち着いて書いてはいるが、そんなものではないのである本書は。圧がすごい。

このテの本には必ずこめられている「好き圧」が、もう、溢れんばかりでコワい。
大丈夫!ちゃんと見るよどの写真も!と(誰かに向かって)言い訳したくなるくらい、中のヒトの「見てください」コールが脳内に響く。文による紹介もばつぐんに彩り豊かで「痛そう!毒がありそう!」なイラガの紹介など「誰がどう見ても毒を持っているとわかる配色であり、おそらく多くの鳥やトカゲも同じような気持ちになるに違いない」なんて、ふむふむと、まるで鳥やトカゲが隣でいっしょに読んでいる気分になったものである。
昆虫ごとに名前/分類/体長・もしくは開長(羽があるやつ)/採集地・撮影地、そして一言キャプションとイニシャルが載っている。このイニシャルは、そのページの写真の撮影者だ。巻末を見ると撮影者は5人。なんだろう「そうか、このセンセイはこの種やこの種やこの種の研究者なのか・・・」と、まるで他人様の嗜好を覗き見てしまったようなこのキモチは。それぐらい「好き圧」があるのだ。「私が見つけた!うれしい新種」というコラムページが各章にあるのだが、みなさま、新種を見つけるだけでも大変なのに、それを分類・同定し証明し、論文に書いてようやく新種認定にこぎつける。その苦労は察してあまりあるのに「新種発見の嬉しさ」が輝きすぎて、ウッカリ羨ましくなるほどだ(ちなみに筆者はその昔、モリアオガエルやカマキリを手に乗せて喜んでいた)。大トリに登場する著者の丸山先生ご本人のページには、大きな虫取り網を片手に仁王立ちする先生の写真がドーンと載っていて、ブラボー。シロアリの畑に居候する甲虫を探していた先生は、思いもよらぬ種を発見! 即「シロアリから奪い取った」。古い文献を穴が開くほど読んだ憧れの分類群だったそうで、種名に「信じられない」という意味のラテン語を引用してつけるくだりなど「そうかーこれが書きたくてこのコラム欄つくったのね・・・」と思っちゃうほど嬉しさダダ漏れで、感動もひとしおであった。

各種並ぶ虫たちの勇姿。そのトリミングも「お気に入り」の種だから、珍しいからと言って大きな写真を載せているわけではなさそうで、つまりいろいろなこだわりがどのページにもあるのだろうと思われ、つい何度も読み返してしまう。そしてまた面白い虫、愉快なキャプション、巧すぎる写真、熱い告白(だって時に「これほどかっこいい虫はこの世にいない」とまで断言したりしてらっしゃるのですよ)を見つける。その繰り返し。最近、こういった「渾身の一打的図鑑」が増えてきたけれど、本書はその中でも「超ピカピカ」な一冊だ。
だから! 昆虫は面白いんだってば。

図書館 司書 関口裕子