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【新着論文】犬の難治性肺高血圧症に対する新たな静脈内注射薬の有効性を実証しました

論 文 名:
Cardiovascular Effect of Epoprostenol and Intravenous Cardiac Drugs for Acute Heart Failure on Canine Pulmonary Hypertension
和訳)犬の肺高血圧症に対する静脈内エポプロステノールおよび急性心不全治療薬の心血管系に与える効果
著  者:
湯地 勇之輔1)、鈴木 亮平1)、里見 修二1)、齊藤 尭大1)、手嶋 隆洋1)、松本 浩毅1)
1).日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医学科 獣医内科学研究室
掲載雑誌:
Veterinary Sciences. 2023; 10(4): 302.
MDPI
Open Access
doi: 10.3390/vetsci10040302.
研究内容:
 肺高血圧症は、肺動脈原発あるいは心肺疾患をはじめとする様々な疾患に続発して肺動脈の内圧や血管抵抗が上昇する難治性疾患です。近年では動物の高齢化や診断技術の向上により、この病気が発見され闘病する犬は少なくありません。重症例では、失神やうっ血性右心不全(胸水、腹水)などの重篤な臨床徴候や突然死を発症する可能性があります。
 現在肺高血圧症に対する治療薬として、ホスホジエステラーゼ-3阻害薬(シルデナフィル)やプロスタサイクリン製剤(ベラプロストナトリウム)、エンドセリン受容体拮抗薬(アンブリセンタン)などの有効性が報告されています。しかし、いずれの治療薬も経口的に投与する内服薬であり、重篤な臨床徴候を呈している緊急症例では即効性および確実性に欠けることが懸念されます。そのため緊急症例では、急性心不全に対して使用されてきた静脈内注射薬であるカテコラミン製剤(ドブタミン、ドパミン)やホスホジエステラーゼ-5阻害薬(ピモベンダン)を経験的に使用してきました。しかし、カテコラミン製剤に関しては肺高血圧症の犬に対する有効性は報告されておらず、ピモベンダンの有効性に関する報告も数報しかありません。ヒト医学領域では、プロスタサイクリン製剤のひとつであるエポプロステノールの静脈内投与が緊急症例に対して有効とされ推奨されていますが、獣医療においてその効果を実証したエビデンスはありません。本研究では、肺高血圧症の犬を用いて、エポプロステノールの有効性をその他の急性心不全治療薬と比較検討しました。
 肺高血圧症の犬に対して麻酔下で各種薬剤を投与したところ、エポプロステノールは肺動脈圧に有意な変化はなかったものの、肺血管抵抗を有意に低下させ、さらに右心機能および心拍出量も有意に改善させました。一方、ドブタミンおよびドパミンは右心機能を改善させましたが、肺動脈圧や肺血管抵抗を上昇させてしまいました。ピモベンダンはエポプロステノールと同様に、肺動脈圧を変化させずに、右心機能を有意に改善させました。以上より、エポプロステノールは犬の肺高血圧症に対して有効な新たな治療選択肢となり、とくに緊急性を要する重症例において即効性および確実性が期待できる薬剤となる可能性を実証しました。肺高血圧症という難治性で複雑な病態によって、急性心不全を呈してしまった犬における新たな治療選択肢となることが期待されます。
(文責:鈴木亮平)

■研究者情報

鈴木 亮平(獣医学部 獣医学科 獣医内科学研究室・講師)

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