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【新着論文】ゲノムに存在する古代ウイルス感染痕跡から鳥類進化の解明にアプローチする

論 文 名:
Detection of long terminal repeat loci derived from endogenous retrovirus in junglefowl using whole-genome sequencing
和訳)全ゲノムシークエンシングを用いたヤケイの内在性レトロウイルスに由来するLTR遺伝子座の検出
著  者:
石原慎矢
日本獣医生命科学大学応用生命科学部動物科学科 動物遺伝育種学教室
掲載雑誌:
Scientific Reports 13(7380), 2023. May 06
Springer Nature Group.
doi: 10.1038/s41598-023-34520-1
研究内容:
 内在性レトロウイルス(ERV)は、過去のウイルス感染の痕跡として古代ウイルスとも称されるものです。このERVは宿主の遺伝的進化や形質獲得に大きな影響を与えてきたことが知られています。しかしながら、鳥類におけるERVに関する知見は哺乳類と比較して多くありません。ここで、鳥類研究の代表的なモデル生物としてニワトリが挙げられます。ニワトリのゲノムは既に解読されており、遺伝子研究に関連する多くのリソースが利用可能です。ニワトリの祖先種であるヤケイにおけるERVの特徴を明らかにすることで、鳥類の進化に関する重要な洞察を得ることが見込めます。この研究では、セキショクヤケイ、ハイイロヤケイ、セイロンヤケイ、およびアオエリヤケイの全ゲノムデータを使用して、ERVの構成要素であるLTR遺伝子座を新たに同定することを目的としました。
 全ゲノムデータを使って解析する際には、特定の個体に由来するたくさんの短いDNAの断片を、すでに解読されているゲノムの配列に合わせて調べます(マッピングといいます)。そして、比較することで遺伝子の変化を見つけ出します。しかし、一部の断片はうまく合わせられないことがあります。この合わせられなかった断片は、個体や集団によって違う要素に対応していると考えられます。この研究では、ヤケイの全ゲノムデータから既知のゲノム 配列に合わせられなかった断片を使って、新規ERVを探索しました。
 結果として、セキショクヤケイ、ハイイロヤケイ、セイロンヤケイ、およびアオエリヤケイからは合計835のERV-LTR遺伝子座を新たに同定することができました。検出されたERV-LTR配列は、内在性鳥類レトロウイルスファミリー、鳥類白血病ウイルスサブグループE、Ovex-1、およびマウス白血病ウイルス関連ERV由来のものに分類されました。また、これらの同定されたERV-LTR遺伝子座の有無に基づいて、ヤケイ属の集団関係の推定が行われました。これらの知見は、ヤケイ属におけるERVの特徴をより包括的な理解に貢献できます。本研究では、ヤケイを対象として調査を行いました。ヤケイとニワトリは密接な関係があります。さらに、ニワトリは私たちの生活に深く関わり、卵や鶏肉の利用はその一例です。ニワトリのERVに関する研究はまだ限られていますが、近年、アロウカナというニワトリの品種が青い卵を産む原因はERVによる近傍遺伝子の発現に関連していることが報告されています。本研究の成果は、ヤケイやニワトリがどのように形質を獲得してきたかを解明する上で重要な寄与を期待されます。特に、ニワトリの卵の色といった形質に対する遺伝子的なメカニズムの理解が進めば、生物進化に関する貴重な知見が得られます。さらに、ニワトリとヤケイを通じて、鳥類全体の進化と生物多様性に関する理解を進めることができると期待されます。
(文責:石原慎矢)

■研究者情報

石原 慎矢(応用生命科学部動物科学科 動物遺伝育種学教室・講師)