わが国では、2000年以降に、口蹄疫、豚熱、高病原性鳥インフルエンザなどの感染症がたびたび発生し、畜産・家禽業に莫大な損害を及ぼしています。これらの感染症以外にも、下痢症状・呼吸器症状・神経症状・異常産等を引き起こす感染症が、牛や豚などの産業動物で広く蔓延しており、牛の下痢症だけでも年間数十億の損害を与えています。これら感染症の制御には、早期診断、予防ワクチンの接種が効果的ですが、牛や豚のような大型産業動物感染症に対するこれらの研究や診断法の開発はあまり進んでいないのが現状です。本研究部門では、本学における牛感染症、豚感染症、産業動物臨床、動物免疫学の各研究者間での有機的なネットワークを構築し、研究途上にある産業動物感染症に対する新規ワクチンおよび新規診断キットの開発に取り組みます。これらの取り組みを通して、食肉や乳牛の安定供給や、家畜の衛生環境の向上に貢献したいと考えております。
私は、コロナウイルスやトロウイルス感染症に関する研究を行っています。コロナやトロウイルスは、家畜や愛玩動物、実験動物等に様々な病気を引き起こすため、獣医学領域では非常に重要なウイルスです。また、動物由来感染症である新型コロナ、サーズやマーズコロナウイルスなどはヒトに対して高い病原性を示すため医学領域でも重要なウイルスです。
現在は、主に動物コロナウイルス(マウス肝炎ウイルス、豚流行性下痢ウイルス、牛コロナウイルス)や動物トロウイルス(牛・豚トロウイルス)を用いて、基礎から応用まで幅広い研究を行っています(下記参照)。これらの研究成果を、家畜の衛生環境の向上や、ヒトコロナウイルス感染症の治療に還元することを目指しています。
1)腸管指向性弱毒牛トロウイルス・ワクチンベクターの開発
2)ドラック・リポジショニングによる抗コロナウイルス薬の開発
3)トロおよびコロナウイルスのリバース・ジェネティクス(人工ウイルス合成法)の確立
4)トロおよびコロナウイルスの粒子形成メカニズムの解明