この一冊
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となりの生物多様性 -医・食・住からベンチャーまで-
分類番号は468。本書をキッカケに読むと当欄で紹介した過去の本『日本の生物多様性』『にっぽん自然再生紀行』『RARE』『うな丼の未来』『オオカミたちの隠された生活』『バナナの世界史』『ウイルスは生きている』・・・みんなみんな、また生き生きと迫ってくるぞ!

となりの生物多様性 -医・食・住からベンチャーまで-

宮下直 著(工作舎 2016年)
2018/04/27更新201803号
生物多様性関連の本は逃しちゃいかんと決めている。生き物にも食生活にも深く関わる問題なので、さまざまな研究がこれからなされるのではないかと思うからである。
「研究したい」と思うためには、まず深く知ることが大事だ。「知りたい」と思う学生さんにも、先生方にも応えなければ!・・・と、しずしず集めてきたけれども、ついにこういう一冊も登場した。

2015年の大村智先生のノーベル生理学・医学賞の話から、本書は始まる。大村先生は、土壌中の微生物から画期的な医薬品を数多く発見した方である(例えばフィラリアの予防薬!)。が、しかし。生物多様性とナニか関係があるのだろうか。
著者の宮下先生いわく「これは生物多様性がもたらした恩恵そのもの、つまり生態系サービスではないか!」(と、興奮して研究室に一斉メールしたそうだ)。
つまり、これら貴重な医薬品は微生物由来である。1グラムの土壌中には数億個とも言われる微生物が棲んでいるのだそうだ。ひしめきあった微生物同士で影響しあい、競争をし、その結果驚くべき「生物多様性」を保ってきた。その恩恵を人類は医薬品として手にしていたわけだからそれは「生態系によるサービス」だというわけだ。
「生物多様性」とよくセットで登場する「生態系サービス」という造語について、その関連性を示唆しながらの説明で、巧いな・・・どちらの語も近年ヒンパンに耳にする。そう、「サービス」というとまるで生態系のいちシステムのように思い描いてしまうが、そこを「多様性からもたらされる恩恵」と説くとは。なるほど、シックリくるではないか。
本書はそこから、年間500種に迫る魚類を取引している築地市場や、季節によりさまざまに並ぶ野菜や果物などを描写して、豊かな食生活という「生物多様性による恩恵(サービス)」に話を移し、さらに最近注目の「バイオミメティクス」も紹介する。ゴボウの実のイガイガをヒントに開発されたマジックテープを始め、近年では蚊の能力を手本に「痛くない注射針」が開発されるなど、実はヒソカに「生き物由来」の文明の利器が増え始めている。これらも「多様な生物が切磋琢磨して磨いた能力」をニンゲンが「すごい!開発して人類も同じもの使えるようになりたい!」と思って発展した技術で、言ってみれば「多様性による恩恵」だというわけだ。
さらにさらに。テーマは俳句文化にまで広がった! 狭い国土、地形のバリエーション、海流などの条件が揃うことで、日本には微妙に移り変わる四季を実感しやすい環境が生まれた。歳時記という優れた文学形態も生みだした「季語」の発展は、生物多様性によって育まれたものではないかという推考である。
いちいち新鮮、そして「腑に落ちた」。

そうやって、暮らしのすみずみにある「生物多様性による恩恵」を示唆しつつ、それが消えていくことについて、あらためて本書は説くのである。本書が伝えたいのは「生物多様性を護るためには理解が必要だよ」ということだからだ。「恩恵」という観点から説いたのは、その動機をつくるためだろう。
今後「護る」という方向性においてできることは、政策をつくることや(それには市民の声や政策決定者の意識が必要だ)、新しい技術を開発することや(研究者も研究費用も要る)、エコシステム(まだ知名度低い)の有効活用を始めとする、本当に多方面からの活動が必要で、それらはすべて「生物多様性ファーストの価値観に転換する」ことにかかっている。それも、ひとりひとりの価値観である。ひとりひとりに動機が必要なのだ。
本書の最後で重要ですと念押しされた「わかりやすくてインパクトのある書籍」に、著者は率先してトライしてみせた。生物多様性についてこれまでも良書を発表してきた著者ならではの、カラフルなホームランではないだろうか。


図書館 司書 関口裕子