本学では統計学の講義を全学科で実施しています。食品科学科では、昨年度まで「生物統計学」(選択科目)を開講していました。最近はデータサイエンスやAI関連の学びが必要となってきていること、食品科学科の実習や卒業研究では統計学の知識が重要であること等を踏まえて、今年度から「食品データサイエンス」に名称変更して、食品科学科2年生の必修科目としています。数回に分けて、食品科学科での「食品データサイエンス」の授業内容を紹介していきます。
食品科学における統計学の一つとして、官能評価(注1)を取り上げました。主に、分析型官能評価と嗜好型官能評価について、具体例とともに、それらの手法を説明しました。一般的なバイオサイエンス系の実験と比べて、食品の官能評価では、片側検定と両側検定をきちんと使い分ける必要があることも紹介しました。実際の統計処理は、結果の数値を検定表(注2)と照らし合わせて、有意な差がある(違いがある)かどうかを判断します。一方、検定表の仕組みは二項分布などの基礎的な統計学で成り立つことから、関連教科書ではその理屈の説明が簡略化されることが多いと感じていましたので、講義内では、どのようにして検定表の数値が決められているかについて、エクセルを活用して、数学的な背景を説明しました。
別日には、実習形式で、スピアマンの順位相関係数の順位法を用いて、甘味の強度の識別試験を実施しました。この手法は、パネリスト個人の識別能力の有無を調べるために使われています。内容は、濃度の異なる砂糖(ショ糖)水溶液6種を学生に提示して、それぞれ味を確かめた後に、自分で濃度の高い順に並べ替えることです。正解と自身の回答の差を計算して、検定表から識別能力の有無を判断することを演習課題としました。結果は様々でしたが、講義で学習した内容を自身の感覚で確かめる授業構成が良かったとの反応がありました。今回の経験が今後の学びに活かされることを期待しています!
注1:官能評価・・・人の五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)によって物や人の特性を評価すること、およびそのための方法
(官能評価士認定テキスト、一般社団法人日本官能評価学会編、霞出版社 より引用)
注2:検定表・・・帰無仮説(一例:二つのものは区別できない)のもと、二項分布を作成して、有意水準(通常は5%)で帰無仮説が棄却される境界の数値を一覧にまとめたもの
(参考資料:JIS Z 9080:2004官能評価分析-方法、官能評価士認定テキストなど)