本学では統計学の講義を全学科で実施しています。食品科学科では、昨年度まで「生物統計学」(選択科目)を開講していました。最近はデータサイエンスやAI関連の学びが必要となってきていること、食品科学科の実習や卒業研究では統計学の知識が重要であること等を踏まえて、今年度から「食品データサイエンス」に名称変更して、食品科学科2年生の必修科目としています。今回は市販食品を題材にした講義を紹介します。
前回の内容(味の官能評価)は以下のリンクです。
https://www.nvlu.ac.jp/food/report/teachers-061.html/
食品のデータとして、私たちの日常生活でよく見かけるものには、食品の栄養成分表示があります。是非、お家にある市販食品を手に取り、栄養成分表示を探してみてください。エネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量の表示が見つかると思います。実は、この表記ルールも細かく決められています(食品科学科の別の講義で取り扱います)。それぞれの栄養成分の化学分析方法は私が担当する分析化学の講義で説明しています。
今夏、学会発表のために、ブラジルに行く機会がありました。ブラジルの食品表示(写真左)では、エネルギー、炭水化物、たんぱく質、脂質、食塩相当量の順であり、日本と表記順が異なります。ちなみに、経由地のカナダ(写真右、英語とフランス語の併記)では、エネルギー、脂質、炭水化物、たんぱく質、食塩相当量となっており、地域による違いが興味深いですね。また、これらの国ではDaily Value(1日の摂取量に占める%)が栄養成分ごとにひとつひとつ計算されて、ほとんどの食品に記載されていました。日本では、ビタミン等の含有量を1日分と表記、ニンジン〇個分の栄養素などと表記されることが多いですが、Daily Valueを記載している食品はあまり見かけないように感じます。
諸外国における食品表示については、本学の授業「食品添加物論」などでも紹介されますので、ぜひ受講してみてください。
話がそれましたが、食品データサイエンスの講義では、数字を自分で取り扱うことを経験してもらうために、探求的な課題を設定しました。つまり、自分でテーマ(食品の種類)をひとつ決めて、同じ種類の市販食品を集めて、栄養成分を集計するアクティブラーニング型の実習を行いました。たとえば、ミルクチョコレートをテーマにした場合は、5種類の異なるミルクチョコレート製品をスーパー等で購入して、栄養成分を記録していきます。学生が調べたデータ(下写真に一部)は、マイクロソフトのForms等で集積して、データベース化(400~500件)しました。
学生は、自分で調べた食品について、統計量計算(平均・分散)や日本食品標準成分表での掲載値との比較を行いました。講義では、学生のデータで作られた栄養成分データベースを使って、重回帰分析すると、栄養成分からエネルギーの値を予測できることを紹介しました。今回のデータでは、(エネルギー kcal)=4.00×(たんぱく質 g)+8.95×(脂質g)+3.96×(炭水化物g)となりました。実は、この式中の係数は、アトウォーター係数(注1)に近い値となっています。成分表におけるエネルギー換算係数をご存じの方は当然の結果と思われるでしょう。データサイエンスには色々な数学や統計的な理論が関わっていて、学修は難しいですが、身近にあるデータを良い材料にして、統計学を身につけていってほしいと考えています。
注1:アトウォーター係数・・・通常の食品のエネルギー計算において、炭水化物を4 kcal/g、たんぱく質を4 kcal/g、脂質を9 kcal/gとすること。