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【新着論文】猫の心筋症に関連する遺伝子変異と、心不全となってしまった場合の重篤度を知る新規指標を報告しました

論 文 名:
① Presence of known feline ALMS1 and MYBPC3 variants in a diverse cohort of cats with hypertrophic cardiomyopathy in Japan
和訳)日本の肥大型心筋症を有する多様な猫集団における既知のALMS1およびMYBPC3遺伝子変異の存在
② The Prognostic Utility of Venous Blood Gas Analyses at Presentation in Cats with Cardiogenic Pulmonary Edema
和訳)心原性肺水腫を有する心筋症の猫における心不全発症時の静脈血液ガス分析の予後的有用性
著  者:
①秋山 礼良1,2)、鈴木 亮平3)※、齊藤 尭大3)、湯地 勇之輔3)、卯川 尚史1,2)
松本 悠貴1,2,4)※
1)アニコム損害保険株式会社 研究開発部門
2)アニコム パフェ株式会社 遺伝子検査セクション
3)日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医学科 獣医内科学研究室
4)麻布大学 データサイエンスセンター
※研究代表者
②谷 章禎1)、鈴木 亮平2)※、松方 聡1)、中村 篤史1)、塗木 貴臣1)
1)TRVA夜間救急動物医療センター
2)日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科 獣医内科学研究室
※研究代表者
掲載雑誌:
PLoS One. Public Library of Science. 2023 Apr 18;18(4):e0283433.
doi: 10.1371/journal.pone.0283433.

Vet Sci. Multidisciplinary Digital Publishing Institute. 2023 Mar 19;10(3):232.
doi: 10.3390/vetsci10030232.
研究内容:
 肥大型心筋症は、猫において最も多い心臓病であり、心筋が異常に厚くなる(肥大する)ことで心不全、血栓症、不整脈、突然死などを引き起こす重篤な疾患です。一部の猫品種(メインクーン、ラグドール、スフィンクス)では、心筋の遺伝子に特定の遺伝子変異を持つ場合、肥大型心筋症のリスクが高くなることがわかっています。しかしこれらの遺伝子変異は、上記3品種でそれぞれ特徴的なもので、他の品種(非特異的品種)では見つかっていませんでした。また肥大型心筋症の猫が、心不全となってしまった場合の予後指標についてはこれまでに解明されておらず、治療および管理に苦戦している現状がありました。
 我々は、これまでの遺伝子研究に用いられてきた猫は欧米の個体が中心であること、日米の猫の遺伝子を比較した研究では両国間で同一品種の猫でも遺伝子の由来が異なること、メインクーンなどが他の品種と過去に交配していた痕跡があることなどから、非特異的品種であっても、肥大型心筋症のリスク変異をもつ可能性を考えました。研究①では、肥大型心筋症に関連する遺伝子変異の有無を、日本で飼育されている猫のみを対象として、非特異的品種を含む13品種と雑種で調査しました。この結果、メインクーンのみが持つと考えられていた肥大型心筋症の罹患リスクを高める変異の一つ(MYBPC3 p.A31P)を、日本で多く飼育されているスコティッシュ・フォールドとマンチカンの2品種も持っていることを明らかにしました。さらに、スフィンクスのみが持つと考えられていた遺伝子変異(ALMS1 p.G3376R)は、スコティッシュ・フォールド、マンチカン、アメリカン・ショートヘア、エキゾチック・ショートヘア、ミヌエットからも発見されました。このことから、肥大型心筋症の遺伝子変異は、一部の猫品種にのみ起こるものではなく、より多くの猫品種においても遺伝子検査を実施することの重要性を示しました。
 心不全は、発症した猫の多くが亡くなってしまう非常に予後の悪い救急疾患で、肥大型心筋症を代表とした心筋症が原因となり発症してしまうことが多いです。研究②では、心筋症に続発した心不全(心原性肺水腫)を起こしてしまった猫を対象に、救急治療現場において、静脈血液ガス検査という通常の血液検査サンプルで判断できる指標の有用性を検証しました。その結果、PvCO2という指標で評価される高炭酸ガス血症が、急性期の治療および管理における予後指標となることを明らかにしました。この指標が高値であればあるほど病態は重度と考えられますので、より積極的な治療介入を実施する根拠となり、さらに多くの猫が救命できる可能性が期待されます。
 本学では、猫の心臓病の多くを占める心筋症について、心筋症にならないための遺伝子の研究、そして、心筋症や心不全にもしなってしまった場合でも、より長く、より幸せに愛猫と暮らせるよう、検査や診断、そして治療および管理に有用となるような研究に注力しています。
(文責:鈴木亮平)

■研究者情報

鈴木 亮平(獣医学部 獣医学科 獣医内科学研究室・講師)

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