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【新着論文】ココナッツオイルは製パン用油脂になり得るか

論 文 名
1) Characteristic of dough prepared with coconut oil
(和訳)ココナッツオイルを用いて調製したパン生地の特徴
2) Coconut oil as an alternative to butter and shortening in bread making
(和訳)製パンにおけるバターおよびショートニングの代替としてのココナッツオイル

著者
根本 香穂1、小林 史幸1,2、小竹 佐知子1
1) 食品科学科・食品工学教室
2) 生命科学総合研究センター

掲載雑誌
1) Cereal Chemistry, 2023, 100, 1173-1179.
  John Wiley & Sons Limited
  doi.org/10.1002/cche.10700
2) Journal of Food Science, 2024, 89, 913-924.
  John Wiley & Sons Limited
  doi.org/10.1111/1750-3841.16925
 
研究内容
 パンは世界中で食されている小麦粉を主原料とした食品です。製パンに使われる油脂はショートニングまたはバターが一般的です。しかしながら、ショートニングはトランス脂肪酸を含んでいるため多量の摂取は心臓疾患などの健康被害の可能性が示唆されていることや、アブラヤシの実から取れるパーム油を原料としているため熱帯雨林の伐採を伴うことなどが危惧されています。また、バターは乳から作られるため、乳アレルギーの心配があります。ココナッツオイルは中鎖脂肪酸のラウリン酸を多く含む油脂であり、しかも森林伐採を伴わないのでSDGsの観点からも製パンにおける代替油脂として利用できるのではないかと考えました。そこで、ココナッツオイルを用いてホームベーカリーで作成したパンの特徴について、ショートニングおよびバターを使用した場合および油脂無添加と比較しました。

 まず、パン生地の特徴について検討しました。ココナッツオイル、ショートニングまたはバター添加および油脂無添加の生地の発酵中の二酸化炭素放出量、生存酵母数およびpHに大きな差はありませんでした。しかしながら、生地とグルテンの応力試験では、ココナッツオイルを添加して調製したグルテンの応力が高くなり、走査型電子顕微鏡観察によりグルテンの網目状構造が多くなる傾向が確認できました(論文①)。

 さらに、焼成パンについて検討しました。ココナッツオイル添加および油脂無添加パンはショートニングまたはバター添加パンよりも若干小さくなりましたが(図)、表面色調の差はほとんどありませんでした。マイクロフォーカスX線CTによる気泡サイズ分布の測定において、ココナッツオイル添加パンの気泡径は大きくなる傾向がありました。電気泳動による不溶性タンパク質の測定において、これら3種類の油脂添加パンではグルテンの強度にかかわる低分子グルテニンの溶出を抑えていることがわかりました。さらに、香気成分測定および応力試験および官能評価においては、これら3種類の油脂添加パンの間でほとんど違いはありませんでした(論文②)。

 以上の結果から、ココナッツオイルはショートニングおよびバターを使用した時と同等の品質のパンを製造可能であると判断しました。 マイクロフォーカスX線CTによる気泡測定にご協力いただきました島津製作所㈱に感謝いたします。


(文責:小林 史幸)

■研究者情報

小林 史幸 准教授
小竹 佐知子 教授
応用生命科学部 食品科学科 食品工学教室
生命科学総合研究センター

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