ニュース news

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

【新着論文】難治性心疾患である肺高血圧症のさまざまな原因と病態を解明し、犬の治療戦略を報告しました

論 文 名
  • 1)
  • Echocardiographic characteristics of dogs with pulmonary hypertension secondary to respiratory diseases
    (和訳)呼吸器疾患に続発する肺高血圧症を有する犬の心エコー特性
  • 2)
  • Pulmonary thrombotic pulmonary hypertension managed using antithrombotic and pulmonary vasodilator treatment
    (和訳)抗血栓薬と肺血管拡張薬により良好にコントロールできた肺血栓症に続発した肺高血圧症の犬の1例
  • 3)
  • Comparative Study of Cardiovascular Effects of Selected Pulmonary Vasodilators in Canine Models of Mitral Valve Disease
    (和訳)肺血管拡張薬が僧帽弁逆流犬の心血管系に与える治療効果の比較検討


著者
  • 1)
  • 湯地 勇之輔1)、鈴木 亮平1)※、里見 修二1)、齊藤 尭大1)、手嶋 隆洋1)、松本 浩毅1)、小山 秀一1)
  • 2)
  • 堀川 里菜1,2)†、鈴木 亮平1)※†、湯地 勇之輔1)†、里見 修二1)、齊藤 尭大1)、手嶋 隆洋1)、松本 浩毅1)
  • 3)
  • 湯地 勇之輔1,3)†、鈴木 亮平1)※†、石田 成未1)、里見 修二1)、齊藤 尭大1)、手嶋 隆洋1)、松本 浩毅1)

1. 獣医学科・獣医内科学研究室
2. 高橋動物病院
3. ガーデン動物病院
※研究代表者
† 共同第一著者


掲載雑誌
  • 1)
  • J Vet Intern Med., 2023; 37(5): 1656-1666.
    WILEY Online Library
    Open Access
    DOI: 10.1111/jvim.16836
  • 2)
  • J Vet Intern Med., 2024 Apr 25.
    Online ahead of print.
    DOI: 10.1111/jvim.17089.
  • 3)
  • Biology, 2024; 13(5): 311.
    MDPI
    Open Access
    DOI: 10.3390/biology13050311


研究内容

 肺高血圧症は、肺動脈の内圧や血管抵抗の上昇を特徴とする難治性心疾患です。重症例では、右心系に過剰な負荷が加わることにより胸水や腹水などの右心不全徴候、および失神や突然死などの致死的な臨床徴候を発症する危険性があります。獣医学領域において、肺高血圧症の原因は以下の6群に分類されます(図の左側);第1群:肺動脈原発、第2群:左心疾患(肺静脈のうっ血)に続発、第3群:呼吸器疾患や低酸素に続発、第4群:肺血栓症に続発、第5群:フィラリアなどの寄生虫疾患に続発、第6群:その他、1~5群の混合など。犬の症例では2群と3群による肺高血圧症が多いといわれていますが、原因は多岐にわたり、各病態も複雑であることから、正確な診断、病態および重症度評価、さらには治療戦略に苦慮する場面が多いです。そこで我々は、様々な原因により肺高血圧症となってしまった犬を詳細に解析し、より正確な病態判断および重症度評価、ならびに肺血管拡張薬による治療効果の比較検討を行いました。

 研究(1)では、呼吸器疾患に続発した肺高血圧症の犬(第3群)において、心エコー図検査による心形態や心機能の特徴を評価しました。これらの犬では、肺動脈の拡大や右心室壁の肥厚が最も一般的な所見であり、呼吸器疾患に続発した肺高血圧症(第3群)の診断および原因鑑別に有用であると考えられました。また、原因となる呼吸器疾患のうち、間質性肺疾患などの拘束性呼吸器疾患に続発した犬は、気管虚脱などの閉塞性呼吸器疾患に続発した犬に比べて肺高血圧症病態がより重度であることを示しました。さらに、胸水や腹水貯留などの右心不全徴候を有する犬の心臓では、右心系だけでなく、左心系を含む心臓全体の機能が悪化していることが示され、病態評価に注意が必要と報告しました。

 研究(2)では、犬では比較的まれな原因である肺血栓症に続発した肺高血圧症の犬(第4群)の診断および治療経過を報告しました。肺血栓症の症例では更なる血栓形成を抑制するための抗血栓治療が基本ですが、本症例では血栓溶解薬と肺血管拡張薬を追加した治療戦略により、長期的に良好にコントロールすることができました。また、Two-dimensional Speckle Tracking Echocardiography法という新規心エコー指標を用いた特徴的な右心室心筋運動が肺血栓症に続発した肺高血圧症(第4群)の診断および治療反応性の評価に役立つことを報告しました。

 研究(3)では、重度な僧帽弁逆流を有し肺高血圧症を続発した犬(第2群)において、詳細な病態評価と治療戦略について検討しました。とくに治療薬については、現在獣医学領域で肺高血圧症の治療に有効とされている肺血管拡張薬であるシルデナフィルとベラプロストの治療効果を比較検討しました(図の右側)。両者ともに、肺動脈圧を下げ、肺高血圧症に対して有効であることが改めて示されましたが、シルデナフィルはベラプロストよりも強力な肺血管拡張作用を有していました。一方で、強力な肺血管拡張作用を示したシルデナフィルは、ベラプロストよりも全身血管拡張作用が軽微だったことから、左心系に過度な負荷をかけてしまうリスクも懸念され、とくに第2群の肺高血圧症の犬では、慎重投与が必要であると考えられました。さらに、シルデナフィルとベラプロストを併用することで、相乗効果により肺動脈圧を顕著に低下させることが期待でき、重症例での併用療法の有効性、さらにシルデナフィルによる左心負荷増悪の軽減効果も期待されました。



(文責:鈴木 亮平)


■研究者情報



■関連ページ