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【新着論文】猫でもっとも多い心臓病である肥大型心筋症は、『血流閉塞』の有無が心機能に大きく影響する

論 文 名:
1) Comparative study of myocardial function in cases of feline hypertrophic cardiomyopathy with and without dynamic left-ventricular outflow-tract obstruction
(和訳)動的左室流出路閉塞の有無で比較した肥大型心筋症の猫における心筋機能の比較検討
2) Relationship between cardiac troponin I concentration and myocardial function in hypertrophic cardiomyopathy cats with or without left ventricular outflow tract obstruction
(和訳)左室流出路閉塞の有無で比較した肥大型心筋症の猫における心筋トロポニンI濃度および心筋機能の関係性
3) Post-carvedilol myocardial function in cats with obstructive hypertrophic cardiomyopathy
(和訳)閉塞性肥大型心筋症の猫に対するカルベジロール治療後の心筋機能
著  者:
1)齊藤 尭大1)、鈴木 亮平1)※、湯地 勇之輔1)、福岡 春1)、里見 修二1)、手嶋 隆洋1)
 松本 浩毅1)
2)里見 修二1,2)、鈴木 亮平1)※、湯地 勇之輔1)、良井 弥生1)、菅野 はるか1)、手嶋 隆洋1)
 松本 浩毅1)
3)齊藤 尭大1,4)、鈴木 亮平1)※、湯地 勇之輔1,3)、福岡 春1)、里見 修二1,2)、手嶋 隆洋1)
 松本 浩毅1)
1. 日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医学科 獣医内科学研究室
2. 動物病院ラスティー
3. 相模原動物医療センター
4. ガーデン動物病院
※研究代表者
掲載雑誌:
1) Frontiers in Veterinary Science., 2023 Jun 22:10:1191211.
frontiers
doi: 10.3389/fvets.2023.1191211
2) Animals (Basel).,2025 May 1;15(9):1313.
MDPI (Multidisciplinary Digital Publishing Institute)
doi: 10.3390/ani15091313.
3) Frontiers in Veterinary Science., 2025 Mar 28:12:1571850.
frontiers
doi: 10.3389/fvets.2025.1571850
研究内容:
 猫の肥大型心筋症は、心筋細胞の肥大を特徴とする、猫で最も多い心臓病です。心筋細胞の肥大は心機能の低下を引き起こし、心不全や不整脈、突然死のリスクにつながります。この病気の猫は、心臓内の血流が阻害される「左室流出路閉塞」の有無によって、閉塞性と非閉塞性に分類されます。ヒトの医療では、この『血流閉塞』が予後を悪化させる重要な要因とされていますが、猫におけるその影響は未解明でした。また、猫の肥大型心筋症において、血流閉塞を治療すべきかどうかは議論が分かれていました。そこで私たちは、肥大型心筋症の猫を血流閉塞の有無で分類し、心機能や内科的治療への反応を詳細に評価しました。
 研究1では、肥大型心筋症の主な病変部の心筋の機能を「二次元スペックルトラッキング法」という心エコー検査で詳細に解析しました。その結果、肥大型心筋症の猫では心筋機能の一部が低下していることが判明し、特に血流閉塞が顕著な猫では広範囲の心筋機能が低下していました。このことから、ヒトと同様に猫でも血流閉塞が心筋機能の有意な低下に関与していると結論付けました。
 研究2では、この心筋機能低下所見と、血液検査で測定可能な心筋細胞のダメージマーカーである「心筋トロポニンI濃度」との関係性を調査しました。その結果、閉塞性の猫では心筋トロポニンI濃度が顕著に上昇しており、心筋機能低下と連動した所見が確認されました。これにより、血流閉塞のある猫は、心筋機能低下と心筋細胞ダメージの両方が顕著であることがわかりました。心筋トロポニンI濃度の上昇は猫の予後不良因子であるため、閉塞性の猫は非閉塞性の猫に比べて、予後が制限される可能性があると考えられました。
 研究3では、血流閉塞を治療対象とすることの有用性を確立するため、閉塞性の猫に対する「カルベジロール」という比較的新しい薬の治療効果を検証しました。有意な血流閉塞を有する閉塞性肥大型心筋症の猫に対してカルベジロールを投与すると、血流閉塞が緩和(左室流出路血流速度が低下)されるとともに、心筋機能と心筋トロポニンI濃度の改善が認められました。また、この治療において重大な副作用は認められず、猫に安全に使用できることも示されました。
これらの研究結果から、猫の肥大型心筋症においても、血流閉塞の有無が心筋機能や心筋トロポニンI濃度の悪化を誘発する重要な分岐点であり、カルベジロール治療がこれらの悪化を阻止する有効な治療となることが明らかになりました。この研究が、猫の心臓病のさらなる病態解明と新たな治療選択肢の道しるべとなることが期待されます。
(文責:鈴木亮平)

■研究者情報

鈴木 亮平(獣医学部 獣医学科 獣医内科学研究室・講師)

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