食料自然共生経済学教室 Research and faculty introduction

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食料自然共生経済学教室

短い時間で4年間の集大成を伝える

永松 美希 准教授

食料自然共生経済学教室は、学生1人1人が各人の関心のある問題を掘り下げ、その問題解決に向けて、丁寧なフィールド調査を行い、論文に仕上げるという学生の問題関心と主体性を大切にした指導を行っている。

今年の室員4年生7名は、以下のような卒論に取り組んだ。

  • 1.「東京酪農における酪農経営の現状とアニマルウェルフェア意識からみる今後の展望」(井出)
  • 2.「日本の農畜産業における酪農教育ファームの果たす役割」(杉崎)
  • 3.「都市における農産物直売所が持つ地域農業活性化の効果に関する考察
    • ~神奈川県内のJAの農産物直売所を事例として~」(橋本)
  • 4.「日本における獣害対策の現状と新たな獣害対策の課題
    • ~イヌを活用したサルやクマの追い払い対策~」(近藤)
  • 5.「治水主体から生態系を重視した河川整備への転換に関する研究
    • ~野川の清流化を事例として~」(小野)
  • 6.「補助犬の普及に関する現状と課題」(石塚)
  • 7.「内水面漁業の振興と川魚消費における課題
    • ~東京都を事例とした振興策とその現状~」(河野)

今年も、世界的な畜産の方向であるアニマルウェルフェアと酪農、地産地消を軸とした農産物流通、近年、大きな問題となっている野生動物による農産物被害の問題、今後普及が望まれる補助犬、東京の中の自然再生事業、衰退する日本の内水面漁業と多様な関心テーマに取り組んだ。

共通するのは、各々が関係機関に問い合わせて資料や統計を収集整理し、そのうえで、調査対象者に対して、丁寧なアンケート調査や個別ヒアリング調査を、時には、繰り返し実施し、その結果を総合的に分析したことである。

2月8日の卒論発表会は大学生活4年間の集大成である。社会科学系の学会であれば、通常20分から30分かけて、自らの研究について発表することができる。しかし卒論発表会で与えられた時間はわずか7分。学生はこの7分の短い時間でいかに自分の研究成果を発表するか苦心した。この経験を通して効果的なプレゼンテーションの技術を学び、与えられた時間を有効に活用することの重要性も学んでくれたと思う。

「発表」は人への「想いやり」

4年 井出 貴宏

私は「東京酪農における酪農経営の現状とアニマルウェルフェア意識からみる今後の展望」というテーマで卒論を行いました。
私は酪農に興味があったことに加え、研究室でアニマルウェルフェアに関する研究も盛んに行われていたことからこの研究を行うこととしました。

卒論発表会は限られた時間の中で自分の研究内容を伝えなければならないので、たくさんのデータから必要なものを選出し、それをスライドで伝えることは初めての経験だったので非常に大変でした。発表は相手がいて初めて成り立つものなので、聞く人のことを考えて見やすく、わかりやすい内容にしなければなりません。私はこの発表会を通して「発表」というのは人への「想いやり」なんだな、というのを強く思いました。

卒論概要

日本語でアニマルウェルフェアは家畜福祉や動物福祉と訳されます。しかしながら「福祉」という言葉から本来の幸福、繁栄といった印象ではなく、「福祉」という言葉は社会保障的な意味合いを持たれ誤解が生じてしまうことから、現在は「アニマルウェルフェア」というカタカナ表記が主流となっています。

もともと、アニマルウェルフェアはEUの市民運動から始まりました。採卵鶏では著しく行動を制限するバタリーケージによる高密度な飼育管理が行われており、EUにおいてはこのような集約的な畜産を反省し、家畜が快適に過ごせる環境を提供するため、1960年代から様々な法整備が進められています。

日本においてもBSEが発生した2001年以降、消費者の家畜の飼養管理への関心が高まりました。そして、2005年「家畜福祉に配慮した家畜の取扱いに関する検討会」が設置され、日本におけるアニマルウェルフェアが検討されはじめました。その後採卵鶏などをはじめとした「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」が公表され、2010年には乳用牛に関する飼養管理指針が公表されました。

都市における酪農は周辺環境などから、いわゆる酪農のイメージである「放牧」は難しく、多くの場合が行動制限のある繋ぎ飼いによる飼養管理となっています。しかしながら、そのような飼養管理においても管理者の意識や日々の乳用牛の取扱いを改善することにより、アニマルウェルフェアに対応した飼養管理を達成することが可能であり、その意識を明らかにし、消費者からさらなる支持を得られる都市型酪農を検討するため、東京を事例として本研究を行いました。

東京では現在55戸ほどの酪農家が生産活動を行っており、また「東京牛乳」といったブランド牛乳の生産を行っています。酪農教育ファームも8戸存在し、教育活動も盛んに行っていました。頭数規模は経産牛で平均して26頭とその他府県と比較しても少なく、従事者数も少ないことから家族経営中心の小規模な経営が主流となっています。アニマルウェルフェアの認知度は低く、意識的にアニマルウェルフェアを実践している酪農家はごくわずかでしたが、東京ではその臭気を減らすなどの周辺環境への配慮から牛舎の衛生状態が非常に良く、乳用牛にとっても快適な環境の提供となり、また日々の取扱いも丁寧に行うことを心がけている酪農家が多く経験的観測からアニマルウェルフェアへの配慮がなされていたものと考えられます。

そのため今後のさらなる科学的なデータに基づいた具体的なアニマルウェルフェアの実践により「東京牛乳」といったブランド牛乳への付加価値として、また東京独自の飼養管理指針策定により安全・安心を保証する「農業生産工程管理」(GAP)の推進へとつながり、TPPに代表される貿易自由化への対応策となりうるものと思われます。

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