研究室紹介と研究内容
当教室の研究は、様々な食品のおいしさの原因を明らかにすることをメインテーマとし、学部生(3,4年生)と大学院生が教員とともに進めています。 学生は、この過程で研究の進め方を学び、機器分析能力や官能評価能力(実際に食品を食べて味、香り、食感の特徴を判定する能力)を高め、大学院や企業の研究開発分野で活躍する能力を付けることができます。
これまでの研究の結果、以下のことを明らかにしました。
1)高級牛肉とされる霜降り和牛肉(脂肪が赤身の中に細かく入っています)のおいしさの主な原因は、酸素存在下で熟成(と殺後0-4℃で数週間貯蔵すること)した後の加熱で生じるコクのある甘い香り(和牛(わぎゅう)香(こう)といいます)にあること、また、和牛香は脂っぽい香りを持つ化合物や桃やココナッツ様の甘い香りを持つラクトン類という化合物などが組み合わさって形成されていることを明らかにしました。
2)地鶏肉として有名な名古屋コーチンや合鴨の肉のおいしさは、普通の鶏肉にはない特有な香り(名古屋コーチン臭といいます)に原因があることを明らかにしました。
3)輸入牛肉、豚肉、羊肉(マトン)、鶏肉(ブロイラー肉)、合鴨肉を食べたときに、肉の種類がわかるのは、それぞれの肉に特徴的な香りがあることが一番の原因であり、その一方、味はすべての肉で同質であり、肉の種類を識別する際の根拠にならないことを明らかにしました。
研究室の室員は、「さまざまなおいしい食品を食べること」、「おいしさの謎への知的なチャレンジ」、「室員同士の交流」という3つの楽しみを日々味わっています。
当教室で行われた和牛香(旧名称:煮牛肉熟成香)の研究が、沖谷明紘前教授(現名誉教授)あるいは松石昌典教授が登場するマンガでわかりやすく解説されていますのでご覧下さい。
また、和牛香の研究は松阪牛協議会のホームページでも紹介されていますので、そちらもご覧下さい。
- 「“肉のおいしさ”を科学する」
- 『子供の科学』 誠文堂新光社 2003年10月号 p.103-111
- 「GOGO!!ミルボ」
- ((C)はやのん)より誠文堂新光社、はやのん氏の許可を得て転載(2006/09/27)
- 「第21回・国民の財産を守れ!おいしい和牛肉の香り(前編)」
- 『キラリ☆研究開発』はやのん作、日刊工業新聞2009年4月6日掲載(前編)
- 日刊工業新聞社、はやのん氏の許可を得て転載(2009/6/1)
- 「第22回・国民の財産を守れ!おいしい和牛肉の香り(後編)」
- 『キラリ☆研究開発』はやのん作、日刊工業新聞2009年4月20日掲載(後編)
- 日刊工業新聞社、はやのん氏の許可を得て転載(2009/6/1)
教員紹介
- 氏 名:松石 昌典 教授
- 学 位:農学博士
- 専門分野:食品化学
- 担当科目:食品成分化学・食品化学・分析化学・栄養化学・食品化学実習
- 食品科学概論(分担)・食品科学概論実習(分担)・基礎化学(分担)
- 氏 名:右田 光史郎 助教
- 学 位:博士(農学)
- 専門分野:食品化学
- 担当科目:食品化学実習・食品科学概論実習(分担)
Close-Up「研究」
■ 1.教育の現状
当教室の研究は3,4年生の卒業論文研究、あるいは、大学院生の修士論文研究として、教員とともに進めています。この過程で研究の進め方を指導し、大学院や企業の研究開発分野で活躍できる能力を付けさせています。研究に用いる手法は機器による分析測定が中心になりますが、食品のおいしさの研究では特に重要な官能評価能力(実際に食べて味、香り、食感の特徴を判定する能力)を高める訓練もしています。
これらのことはマンツーマン指導方式で行っていますが、ほかに一斉教育として毎週セミナーを行っています。ここでは、研究の背景の理解と英語能力の向上を目的に、英国の食品化学の大学生用教科書の輪読を行うとともに、ヒアリング教材を用いて英語を聴き取る能力向上を図っています。さらに様々な社会現象に興味を持ち、分析判断力をつけさせるために新聞の社説を使っての討論を行っています。
大学院生については、研究の背景を理解するために、上記のセミナーとは別に、研究に関連した英語論文を精読する特別セミナーを行っています。
これらの結果として、学部学生は卒業後に本学あるいは国公立大学の大学院に進学したり、企業の研究開発部門で活躍したりする人が比較的多くなっています。大学院修士課程卒業後は企業に就職し、その後、企業の要請を受けて社会人枠の博士課程に入り、すでに博士号を取得した者も3名おります。また、国公立大学の大学院で博士号を取得し、公立大学の教員となっている者も1名おります。平成18年度から受け入れた大学院生についても、卒業後の活躍が期待されます。
■ 2.研究の現状
平成10年から現在までの当教室の研究テーマは「食品のおいしさに関わる諸問題」であり、各種の食品のおいしさを構成している味、香り、食感などの内容を化学的に明らかにするとともに、それらが食品の熟成、貯蔵、加工、調理によってどのように変化し、おいしさの向上や場合によっては低下をもたらすのかを明らかにしてきました。これまでに明らかにしてきたことと現状は以下の通りです。
1)和牛肉のおいしさの原因解明
わが国の2000世帯を対象とした嗜好調査では、霜降り牛肉である黒毛和牛肉をおいしいとする世帯が82%であり、輸入牛肉をおいしいとする世帯はわずか3%弱です。つまり、わが国では圧倒的な和牛肉志向です。当教室はこの原因解明にとりかかり、和牛肉のみに熟成後の加熱で発生するコクのある甘い香りが、おいしいと判定される主原因であることをまず明らかにし、この香りを和牛(わぎゅう)香(こう)(煮牛肉熟成香ともいう)と命名しました。さらに、和牛香は、赤身肉と霜降りの脂肪と酸素との反応で生成することも解明しました。この発見に基づいて、和牛肉の和牛香を純酸素ガスを用いて増強する方法を発明し特許を取得しました。さらに、全く和牛香を持たない輸入牛肉に和牛香を賦与する特殊加工法を発明し特許を申請しております。
和牛肉の香気成分をガスクロマトグラフィーと質量分析計で分析し、和牛香が単一成分ではなく、脂っぽい香りをもつ数種の化合物に、桃やココナッツ様の甘い香りをもつ数種のラクトン類と肉様の香りを持つある種の成分が組み合わさって形成されるとの推定に至っております。現在はそれらの成分の生成機構の解明に努めています。
2)名古屋コーチンと合鴨のおいしさの原因解明
近年市場によく出回っている地鶏肉として有名な名古屋コーチンと合鴨(アヒル雌と鴨雄の一代雑種)には、ブロイラーにはないおいしさがあるとされています。当教室ではそのおいしさの原因解明を、味、香り、食感に注目して試みました。その結果、名古屋コーチンには、チキン臭とは異なる特有の名古屋コーチン臭と呼ぶべき香りがあり、合鴨にもこの香りと同質のより強い香りがあることを明らかにしました。味質に差がないことから、この特有の香りがおいしさの主原因であると推定しました。現在はこの特有香の構成成分と生成機構の解明に努めています。
3)各種食肉の畜種識別因子の解明
輸入牛肉、豚肉、マトン、ブロイラー肉、合鴨肉を用いて、これら食肉の畜種を決める官能的因子が何かを追究しました。その結果、味はすべて同質であり、味では畜種は識別できないこと、また、識別の最重要因子は香りであり、次が食感であることを明らかにしました。
4)その他
各種食肉缶詰の特有のおいしさ因子に関する研究、豚ネック肉(通称:豚トロ)のおいしさ因子に関する研究、低温真空調理したイカのおいしさ因子に関する研究なども行っています。
酵素反応試験の様子
香気成分測定の様子
タンパク質定量の様子
学生からの一言
4年 江田 芳崇
私は、和牛肉のおいしさを決定する香気成分の同定およびその生成メカニズムを解明するために、官能試験や、機器分析による実験を行っています。食品がなぜおいしいか、おいしさを決定するものは何なのかを研究することは、大変興味深いものです。
食品化学教室では週に一度セミナーを行っており、食品に関する英文の読解やリスニング、また新聞の社説についてディスッカションを行うため、研究進めていく上での基礎知識や、就職活動をする際に必要な社会問題といったことも身につけることができます。
教室の雰囲気は、先生方を含め、室員全員が仲良く、とてもアットホームなので誰でもすぐに溶け込むことができます。私にとって本教室は知識を深める場であり、また人間的にも成長できるとても良い場所だと思います。
修士1年 菊池 圭祐
僕は食品の香りに興味を持っており、その“香り”の観点からも食品のおいしさを研究している本研究室を選んでから2年の月日を経て、僕は大学院生となりました。今日では、先生方の厳しくも温かいご指導をうけ、研究を続ける日々をおくっています。
週に一度のセミナーでは、化学英文の和訳、リスニングの練習、新聞の社説による社会情勢についての討論を行っています。
一方、本研究室では、イベントや飲み会も多く、研究室とは違った雰囲気で先生や室員のみんなと接することができ、とてもアットホームな雰囲気でもあります。研究を進めていくうえでとてもいい環境に身を置いていることを自覚して、これからも精進していきたいと思っています。




























