私たちの研究室では、ヒト生体内や食品製造の現場において、植物性食品のパワーが十分に発揮できる方法の提案を目指しています。
お米や小麦などの穀類、サツマイモやジャガイモなどのイモ類、また、各種の野菜や果物などは昔から人間を支えてきた主要な食料資源です。これらの植物性の食品材料は、収穫後の貯蔵・調理・加工によって、含有成分が量的・質的に変化します。
これは、細胞の内部で酵素と呼ばれるタンパク質が働いて化学反応が起きていたり、温度や調味料の添加によって含有成分の構造や生成量が変化したりするためです。私たちの研究室では、酵素の構造や特性、さらには含有成分の生成特性を生化学的に解析し、収穫後の貯蔵・加工・調理との関わりを調べています。同時に、酵素を利用した、味や栄養等の改良に役立つ食品成分を効率よく作り出そうとする酵素バイオテクノロジーの立場からの応用的な研究も進めています。また、茶に含まれるポリフェノールの機能性発現機構について生体成分との分子間相互作用を化学的に解析すると共に、植物性食品の摂取が運動パフォーマンスや疲労に与える影響を分子生物学的に追究しています。
当研究室では、大きく三つのテーマに沿って、生化学的・分子生物学的な実験手法を用いることで、植物性食品中の酵素や含有成分とその機能性について学んでいます。
腸内環境改善や成人病予防に効果的であることが知られるフルクトオリゴ糖を豊富に含有しているキクイモの一種ヤーコン」に注目して、研究を進めています。貯蔵や加工中に起こるフルクトオリゴ糖の量的・質的変化を分析し、合成系および分解系の酵素の活性との相関を調べています。さらに、関連酵素の分離精製と特性解析を行なうことによって、ヤーコンに含まれる有用なフルクトオリゴ糖を我々の食生活に効果的に活かせる貯蔵・加工方法の確立を目指しています。
現代では食後の血糖値を急激に上昇させる炭水化物源の摂取は忌避傾向にあります。しかし、日本人の主な炭水化物源となる穀類や澱粉質野菜には、レジスタントスターチ(RS)と呼ばれる難消化性澱粉が存在します。RSは、食後の血糖値や中性脂肪値の上昇抑制効果や、排便促進効果さらには腸内細菌叢改善効果の機能性が知られており、温度や他の物質との相互作用によって生成量が変動します。そこで、当研究室では、あらゆる工程により調理・加工される澱粉質野菜に着目し、調理・加工工程によるRS生成量の変動や、確立した条件によって調理・加工された料理を食べた後の体内パラメータ変動の解明を目指しています。
野菜には、クロロフィルやカロテノイドなどをはじめとして色素成分が多く含まれています。これらの色素成分などの保健機能成分は、ファイトケミカル(phytochemical)”と総称され、抗酸化作用をはじめとした多くの機能性をもつために、食物繊維に続く第7の栄養素として近年重要視されています。しかし、ファイトケミカルと運動パフォーマンス向上との関係を明らかにした研究は乏しい状態です。そこで当研究室では、運動後の疲労回復に与えるファイトケミカルとそれらを含む野菜抽出物の影響の解明や、そのファイトケミカルを野菜から効率的に得る調理・加工条件および摂取方法の提唱を目指します。
私は葉物野菜中に特に多く存在するクロロフィルから酵素反応により遊離される“フィトール”について研究しています。フィトールには脂質異化促進作用および血糖値の上昇抑制作用があるとされ、本研究の進展により、葉物野菜に豊富なクロロフィルに潜在する健康維持効果を明らかにしたいと考えています。
農産食品学教室はアットホームな雰囲気で、議論が活発に行われています。日々の実験・ディスカッションを通し、社会で通用する力を身につけられる環境だと感じています。
私はヤーコン塊根中の成分変化について調べています。ヤーコンはプレバイオティクス効果をもつオリゴ糖を豊富に含んでいますが、保存や加工によってオリゴ糖が量的、質的にどのように変化するのかを分析し、オリゴ糖が減少しない保存条件を探しています。分析時はHPLCという機器を使用することが多いのですが、3年生の頃から実際に取り扱う機会をいただいてきたので、専門的な知識や技術を身につけることができました。疑問点に対して先生方は丁寧に教えてくださいますし、室員間で気軽にディスカッションできる環境なので、充実した研究室生活を送ることができていると感じています。