学長挨拶

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

過去、現在、そして未来へ、敬譲相和のもと、
愛と科学の聖業を培う。

日本獣医生命科学大学
学長 鈴木 浩悦

初めに

 この度、2022年10月より日本獣医生命科学大学長に就任致しました。近年、大学を取り巻く環境は急変しており、大学が社会において果たす役割もダイナミックに改革していく必要があります。この厳しい時代に重責を担うこととなり、身の引き締まる思いです。就任に当たり、まずは本学の歴史を振り返り、理念を再認識し、現状を分析した上で、未来へとつなぐことができればと思います。

設立と歴史

 日本獣医生命科学大学は、畜産の発達が急務であった明治14年に獣医技術者の養成を目的として、30歳に満たない9人の青年獣医官が共同で設立した日本最古の私立獣医学校1)を起源としています。その発祥の地は文京区音羽の護国寺で、生類憐れみの令2)を発布した徳川綱吉公が建立した名刹です。その後、私立獣医学校は明治22年に一旦閉校しましたが、明治25年に私立東京獣医学校として再開しました。その際には、「術より理に入る主義」を教育方針として、「実用的獣医の養成」が目的として掲げられました3)。また、昭和14年に制定され、長年歌い続けられている学歌の4抄には、「人の世恵む鳥獣をしみ護るも国のため、敬譲相和ゆるみなく、愛と科学の聖業にいそしむ日々ぞ栄あれ」4)と、本学の歴史的精神が刻まれています。昭和24年には獣医学科と畜産学科を有する日本獣医畜産大学として開校し、昭和27年には、医学系私立大学で最も歴史の長い学校法人日本医科大学の傘下に入りました。さらに、平成18年には日本獣医生命科学大学と校名を変更し、獣医学部に獣医学科と獣医保健看護学科を、応用生命科学部には動物科学科と食品科学科を設置し、2学部4学科の現在の複合型大学となりました。

教育理念

 本学は、畜産振興を支える獣医の養成学校として、生命を愛しみ憐れむ寺院の一角で産声を上げ、時代の要請に合わせて関連学科を設置し、技術を重んじた専門教育を140年にも渡り継続してきました。獣医学部は、病気から動物の命を守ることで人類に貢献し、応用生命科学部は、命の尊厳を守りながら人類のために活用する。学是「敬譲相和」のもと、それぞれのテーマの科学的探求と教授を通じて、愛と科学の心を有する質の高い獣医師、専門職、研究者を育成することを教育理念として掲げ、これまでに約2万人の卒業生を輩出しています。本学は獣医師、愛玩動物看護師、家畜人工授精師、実験動物技術者、学芸員、中学校及び高等学校教諭一種免許状、バイオ技術者、食品安全管理員、HACCP管理者(取得可能資格)など、様々な資格取得に対応した教育カリキュラムを備え、卒業生は様々な分野で活躍しています。

現在の本学

 近年、人と動物の共生社会の実現に向けて、獣医師の果たす役割が重視されています。本学の獣医学科はこれまで、魚病学や野生動物学などの新しい学問分野を逸早く取り入れてきました。現在は日本初のシェルターメディスン講座を開設し、その研究・教育活動に取り組んでいます。本学の獣医保健看護学科は、4年制大学として国内で最初に設置され、愛玩動物看護師の国家資格化において先導的な役割を果たしました。獣医療の高度化に伴い、チーム獣医療における動物看護師の役割はさらに重要となっているため、より高度な専門知識と技術を有する動物看護師の育成を進めています。気候変動や紛争がもたらす世界的な食糧価格の高騰は、食糧自給率の低い日本では特に重視すべき問題です。本学は利便性の良い都市近郊のキャンパスに加えて、緑溢れる富士の麓に付属牧場を有しています。動物科学科の研究領域の1つは畜産資源科学であり、この牧場を用いて、動物福祉とSDGsに配慮した、より効率的な畜産を展開するための研究を進めています。食品科学科は、安全で良質、嗜好性の高い食品の開発や供給を1つのテーマとしており、麹を使ったチーズ加熱滅菌によらない日本酒製造技術など、日本の食文化に根ざした食品研究を行っています。
 本学の昨年度の文科省科学研究費補助金取得件数は、獣医畜産学とその関連分野において私立大学で1位教員一人当たりの特許収入も理系私立大学で1位でした。この様に、個々の教員は、独創性、インパクト、実用性の高い研究を進めています。

未来へ向かって

 本学には生命科学に関連した様々な分野の専門家が揃っています。多様な背景を持った方々が本学の教員と出会い共に学ぶことで、目標を見つける、資格を手にする、人生を豊かにする、イノベーションの創出に繋がる、その様な場として大学が機能することが大事だと考えています。長かったコロナ禍が終わろうとしています。社会では短期間に大きな変革が進み、本学でも学修支援システムを基盤とした遠隔の講義や実習を展開していますが、個別指導に近い教育から開始した技術教育重視の本学の伝統を今後も大切にしたいと思います。本学の学是は敬譲相和です。伝統に驕ることなく、社会に開かれ、外部と様々な連携を構築し、自らも進化していく。これまでの慣例にとらわれない新しいシステムや組織を作り、本学ならではの研究と教育を展開する。そのことで社会に貢献する大学であり続けること、そのために尽力したいと思います。
 本学の理念に共感し、共に学び合える、好奇心あふれる皆さんと出会えることを、本学の全教職員とともに楽しみにしております。


注釈
1)日本で最初に作られた私立の獣医学校で、同校の卒業生は各地で獣医療の普及に努めた。第1回卒業生の梅野信吉は、後に北里柴三郎の右腕として働き、牛痘や狂犬病ワクチンの研究に貢献すると共に、麻布大学の設立に寄与した。

2)行き過ぎた政策として徳川家宜によって撤廃されたが、その範囲は子供や病人にもおよぶもので、その意義は再評価されている。

3)私立東京獣医学校は「術より理に入る主義を依って学理と実際との並行につとめ、専ら実用的獣医を養成することを目的とする」として、最初の1ヶ月間は実地演習を主体としていた。3年制の本科に加えて、現在のリカレント教育に通じる、教育年限を定めない選科を開設した。明治40年に日本大学獣医学科の前身である東京獣医学校を設立した越智喜三郎は同校の卒業生である。

4)浅野孝之作詞、東京音楽学校作曲。昭和33年に補改されたが、4抄だけは原詩がそのまま引き継がれている。





学長プロフィール

鈴木 浩悦(すずき ひろえつ)

生年 1965年
出身 東京都
現職 教授(獣医生理学研究室)
学位 1995年 3月 博士(獣医学)
専門 獣医生理学、獣医遺伝学
学歴 1991年 3月 日本獣医畜産大学獣医畜産学部獣医学科卒業
1995年 3月 日本獣医畜産大学大学院獣医学研究科博士課程修了
経歴 1995年 4月 日本獣医畜産大学獣医畜産学部獣医学科 助手
2001年 4月 日本獣医畜産大学獣医畜産学部獣医学科 講師
2001年 6月 ワシントン州立大学 研究員(2002年7月迄)
2006年 4月 日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科 助教授
2007年 4月 日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科 准教授
2010年 4月 日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科 教授
(現在に至る)
2015年 4月 日本獣医生命科学大学生命科学共同施設 施設長
(2016年3月迄)
2018年 4月 日本獣医生命科学大学大学院獣医生命科学研究科
獣医学専攻主任
(2022年3月迄)
2020年 4月 日本獣医生命科学大学 教務部長
(2022年3月迄)
2022年 4月 日本獣医生命科学大学大学院獣医生命科学研究科長
(2022年9月迄)
2022年10月 日本獣医生命科学大学 学長
(現在に至る)
受賞 2007年 日本生殖医学会学術奨励賞
2008年 日本獣医生命科学大学梅野信吉賞
研究者情報

過去の学長挨拶